油画あぶらえ)” の例文
旧字:油畫
不折ふせつ油画あぶらえにありそうな女だなど考えながら博物館の横手大猷院尊前だいゆういんそんぜんと刻した石燈籠の並んだ処を通って行くと下り坂になった。
根岸庵を訪う記 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
妹の居間いまには例の通り壁と云う壁に油画あぶらえがかかり、畳にえた円卓えんたくの上にも黄色い笠をかけた電燈が二年前の光りを放っていた。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
妹さんだって油画あぶらえかきだわ。みんな阿母さん系統なわけなのよ。それにしても私にかぶさって来るあの人たちの雰囲気ふんいきはいいとはいえないわ。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
浮絵の名所絵に写生の技を熟練せしめたるのち、寛政八年頃より司馬江漢しばこうかんにつきて西洋油画あぶらえの画風を研究し、これに自家特有の技術を加へて北斎一流の山水をつくりいだせり。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
西洋人の家へ行ってみ給え、中流以下の人士では客室に油画あぶらえの掛けてない家が沢山ある。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
古風いにしえぶりを存ぜる弔燭台つりしょくだい黄蝋おうろうの火遠く光の波をみなぎらせ、数知らぬ勲章、肩じるし、女服の飾などを射て、祖先よよの油画あぶらえの肖像の間に挾まれたる大鏡に照反てりかえされたる、いへば尋常よのつねなり。
文づかひ (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
たとえば油画あぶらえを始めた時にも、彼女の夢中になりさ加減は家族中の予想を超越ちょうえつしていた。彼女は華奢きゃしゃな画の具箱を小脇こわきに、篤介と同じ研究所へ毎日せっせとかよい出した。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
油画あぶらえの額はゆがんだり、落ちたりしたのもあったが大抵はちゃんとして懸かっているようであった。これで見ても、そうこの建物の震動は激烈なものでなかったことがわかる。
震災日記より (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
浮世絵は概して奉書ほうしょまたは西之内にしのうちに印刷せられ、その色彩は皆めたる如くあわくして光沢なし、試みにこれを活気ある油画あぶらえの色と比較せば、一ツは赫々かくかくたる烈日の光を望むが如く
浮世絵の鑑賞 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
浮世絵は概して奉書ほうしょまたは西之内にしのうちに印刷せられ、その色彩は皆めたる如くあわくして光沢なし、試みにこれを活気ある油画あぶらえの色と比較せば、一ツは赫々かくかくたる烈日れつじつの光を望むが如く
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
多少の蒐集癖を持っていた従兄はこの部屋の壁にも二三枚の油画あぶらえ水彩画すいさいがをかかげていた。僕はぼんやりそれらのを見比べ、今更のように有為転変ういてんぺんなどと云う昔の言葉を思い出していた。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
何だと聞いたら油画あぶらえだと云った。その頃田舎では石版刷の油画は珍しかったので、西洋画と云えば学校の臨画帖より外には見たことのない眼に始めてこの油画を見た時の愉快な感じは忘られぬ。
森の絵 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)