水楢みずなら)” の例文
広瀬からや爪先上りの赤土道を、七、八町も行くと、原中に一本の大きな水楢みずならか何かの闊葉樹が生えているそばで路が二つに岐れる。
一箇処、岸の崩れたところがあって、其処に生えていた水楢みずならの若木が根こそぎ湖水へ横倒しにされながら、いまだに青い葉をむらがらせていた。
晩夏 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
水楢みずならや白樺の林のある尾根道を過ぎて朋不知ともしらず坂という坂へ一足かゝると、わたくしはもう帰ると言い出しました。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
暗灰褐色の樹皮が鱗状うろこじょうき出しかけている春楡の幹、水楢みずならかつらの灰色の肌、鵜松明樺さいはだかんば、一面にとげのある※木たらのき栓木せんのき白樺しらかばの雪白の肌、馬車は原生闊葉樹の間を午後の陽に輝きながら
恐怖城 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
水楢みずならとちなどもあったように思うが、繁り合った葉がそよふく風に揺れて、その間から洩れる日の光がみどりの竪縞を織りなしている。
木曾御岳の話 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
そして只見川渓谷のぶな水楢みずならの明るい闊葉樹林に比べて、日光から会津の山という山が真黒に茂った暗い針葉樹林に掩われているのに一驚を喫しない者はあるまい。
野営地の附近は水楢みずならとちぶな、などの大木が鬱蒼と繁った見事な闊葉樹林である。
北岳と朝日岳 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
赤沢の合流点附近に於けるぶな水楢みずならの深林は、なんという潤いにみちた豊麗な色沢をもっていることであろう。この谷で聞く杜鵑の声ほど場所にふさわしいものはあるまいといつも想うのである。
秩父の渓谷美 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
晴れた青空に拡がるだけ枝を伸した水楢みずならなどの大木の若葉が、日光にとおって豊麗な生々した黄金色に冴えている。飛び交う羽虫の翼が其間からひらひら閃めく。実に長閑のどかな晩春の行楽であった。
釜沢行 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
湯は水楢みずならなどの大木が茂っている川べりの岩壁の下からだぶだぶ湧き出して、清浄な砂を底とした天然の岩槽に湛えたまま、人の勝手に浴し去るに任せてある。全く周囲の自然と旨く融合している。
黒部川を遡る (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)