比叡ひえ)” の例文
たださえ京はさびしい所である。原に真葛まくず、川に加茂かも、山に比叡ひえ愛宕あたご鞍馬くらま、ことごとく昔のままの原と川と山である。
京に着ける夕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
車をやり通させずに所々でとめて病人に湯を飲ませたりした。比叡ひえ坂本さかもとの小野という所にこの尼君たちの家はあった。そこへの道程みちのりは長かった。
源氏物語:55 手習 (新字新仮名) / 紫式部(著)
木片の薬師、銅塊どうくわい弥陀みだは、皆これ我が心を呼ぶの設け、あがめ尊まぬは烏滸をこなるべく、高野の蘭若らんにや比叡ひえ仏刹ぶつさつ、いづれか道の念を励まさゞらむ、参りいたらざるは愚魯おろかなるべし。
二日物語 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
ひつじの刻(午後二時)をすこし過ぎた頃、比叡ひえの頂上に蹴鞠けまりほどの小さい黒雲が浮かび出した。と思う間もなしに、それが幔幕まんまくのようにだんだん大きく拡がって、白い大空が鼠色に濁ってきた。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
比叡ひえにうす雪するとかゆくれぬ錦織るなるうつくしき人
舞姫 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
比叡ひえの山かぜ
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そのころ比叡ひえ横川よかわ某僧都なにがしそうずといって人格の高い僧があった。八十を越えた母と五十くらいの妹を持っていた。この親子の尼君が昔かけた願果たしに大和やまと初瀬はせ参詣さんけいした。
源氏物語:55 手習 (新字新仮名) / 紫式部(著)
春の山比叡ひえ先達せんだつ桐紋きりもん講社かうじや肩衣かたぎぬしたる伯父かな
舞姫 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)