此地こゝ)” の例文
山間の私雨わたくしあめといふ言葉は實に斯樣かういふのをいふのであらう。我等は此地こゝの探勝を他日の樂みにしてふたゝび車上の人となつた。
華厳滝 (旧字旧仮名) / 幸田露伴(著)
此地こゝでない、どこかほかところに広々とした、まだ何者にも耕し古るされてゐない新鮮な沃野よくやが拡がつてゐる。
新らしき祖先 (新字旧仮名) / 相馬泰三(著)
此地こゝには妓楼ぎろうがありますでな、とりの無いのもなものぢやといふ事でと、神酒みきばんするらしきがなにゆゑかあまたゝび顔撫かほなでながら、今日限こんにちかぎ此祠このほこらりましたぢや。これも六七年前。
もゝはがき (新字旧仮名) / 斎藤緑雨(著)
内儀かみさまがじやらくらのびんたぼ胸わるやと、張仆して馳出けるもあり、旦那どのと口論のはては腕だての始末むづかしく、警察けいさつのお世話にも幾度とかや、又ぞろ此地こゝも敵の中と自ら定めぬ
暗夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
請出した恩誼おんぎも有るからよもやと思います、の時など手を合せて、わたしは生涯此地こゝに芸妓を為て居る事かと思いましたが、貴方のお蔭で足を洗って素人に成れまして、んな嬉しい事は無い
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
此地こゝ見ては磯部を談る勇気なし
西航日録 (新字新仮名) / 井上円了(著)
然れども流石年来としごろ頼める御仏に離れまゐらせんことも影護うしろめたくて、心と心との争ひに何となすべき道も知らず、幼きより頼みまゐらせたる此地こゝの御仏に七夜参の祈願を籠めしも
二日物語 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
「だが、此地こゝで一体何がおつぱじまるんだね?」
新らしき祖先 (新字旧仮名) / 相馬泰三(著)
御承知でせうが奥山の出水でみづは馬鹿にはやいものでして、もう境内にさへ水が見え出して参りました。勿論水が出たとて大事にはなりますまいが、此地こゝの渓川の奥入おくいりは恐ろしい広い緩傾斜くわんけいしやの高原なのです。
観画談 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)