標札ひょうさつ)” の例文
「それじゃ、つい近所ですな。訳はありません。帰りにちょっと寄って見ましょう。なあに、大体分りましょう標札ひょうさつを見れば」
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「僕の標札ひょうさつを門へ出させて戴きたいんです。名刺に書くのに、大谷方では如何にも居候いそうろうのようで具合が悪いというんです」
求婚三銃士 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
そのうちに僕等は薄苔うすごけのついた御影石みかげいしの門の前へ通りかかった。石にめこんだ標札ひょうさつには「悠々荘ゆうゆうそう」と書いてあった。
悠々荘 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「ええと、この辺じゃと云われたが、どうも門へ標札ひょうさつも出してないというようなあんばいだ。一寸たずねますが、ひなげしさんたちのおすまいはどの辺ですかな。」
ひのきとひなげし (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
医師の標札ひょうさつの出ているドアのびりんをおせば、知識ちしきがあり慈愛じさい深い人にかならず会うことができる。
門口へ指田流の標札ひょうさつをかけて一節切の指南を始めましたが、品のい芸は習う人は稀でございます。
かの女が分譲地の標札ひょうさつの前にとまって、息子に対する妄想もうそうたくましくしてる間、逸作は二間ほど離れておとなしく直立して居た。おとなしくと言っても逸作のはただのおとなしさではない。
かの女の朝 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
標札ひょうさつを見てすぐ思いだしたわけです」
旗岡巡査 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「実は私はつい御近所で——あの向う横丁の角屋敷かどやしきなんですが」「あの大きな西洋館の倉のあるうちですか、道理であすこには金田かねだと云う標札ひょうさつが出ていますな」
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
古いくぐり門や黒塀くろべいは少しもふだんに変らなかった。いや、門の上の葉桜の枝さえきのう見た時の通りだった。が、新らしい標札ひょうさつには「櫛部寓くしべぐう」と書いてあった。
死後 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
その白いいわになったところの入口に、〔プリオシン海岸かいがん〕という、瀬戸物せともののつるつるした標札ひょうさつが立って、向こうのなぎさには、ところどころ、ほそてつ欄干らんかんえられ
銀河鉄道の夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
ところが祭壇の下オーケストラバンドの右側に、「異教徒席」「異派席」という二つの陶製の標札ひょうさつが出て、どちらにも二十人ばかりの礼装をした人たちが座って居りました。
ビジテリアン大祭 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
もう鼠色のペンキのげかかった、狭苦しい玄関には、車夫の出した提灯ちょうちんの明りで見ると、印度インド人マティラム・ミスラと日本字で書いた、これだけは新しい、瀬戸物の標札ひょうさつがかかっています。
魔術 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「だって櫛部寓って標札ひょうさつが出ているじゃないか?」
死後 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)