業因ごういん)” の例文
その償ひは質の好い使用人を優待することで充分償はれてゐるはずであるが……はて何であらう、何がうまでひどく自分の今の運命にたたつて来た業因ごういんであらう⁈
老主の一時期 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
もしわれにして、汝ら沙門の恐るる如き、兇険無道の悪魔ならんか、夫人は必ず汝の前に懺悔こひさんの涙をそそがんより、速に不義の快楽けらくに耽って、堕獄の業因ごういんを成就せん
るしへる (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
妙なことをいうようだが、おれの回想のなかで産声をあげた小さな魂は、幸か不幸か、そんな年廻りを身につけて生れて来たのだ。これが歴史の業因ごういんというものだ。
あの上﨟のおん為めには却って業因ごういんをお作りになるようなものかと思います、命が惜しくてかようなことを申すのではないことは、三宝も御覧になっていらっしゃるでしょう
三人法師 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「定めなきちぎり、つたなき日々の業因ごういん」、今いう浮川竹うきかわたけの流れの身と、異なるところがないようであるが、彼らのような支度では、本式の田舎いなかわたらいはできそうにも思われない。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
これに比べるなら、在銘品の方にはずっと業因ごういんが深いと思われる。我執がしゅうがつきまとうからである。汗を流して働いたり、沢山作ったり、安ものを作ったりする事は、何も呪わしい事とはならぬ。
改めて民藝について (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
たたかへとあたへられたる運命かあきらめよてふ業因ごういんかこれ
九条武子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
鶴見は思い詰めた一心から、その業因ごういんを贖物に供えようと考えている。これはむに已まれぬ執著に外ならない。執著の業には因がある。その業因は彼の未生以前みしょういぜんさかのぼる。
されば仏菩薩は妖魔のたぐい、釈教は堕獄の業因ごういんと申したが、摩利信乃法師一人の誤りか。さもあらばあれ、まだこの上にもわが摩利の法門へ帰依しょうと思立おぼしたたれずば、元より僧俗の嫌いはない。
邪宗門 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
たたかへとあたへられたる運命かあきらめよてふ業因ごういんかこれ
九条武子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)