楠氏なんし)” の例文
然るに答える者はなく、駈け出して来る兵もなく、楠氏なんしの陣営には、きすてられたかがりが、余燼よじんを上げているばかりであった。
赤坂城の謀略 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
蒲生君平高山彦九郎のはいをして皇室の衰頽を歎ぜしめ勤王の大義を天下に唱えしむるにおいて最も力ありしものは嗚呼ああれ忠臣楠氏なんしの事跡にあらずして何ぞや
基督信徒のなぐさめ (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
しかれども其の意を立て材を排する所以ゆえんを考うるに、楠氏なんし孤女こじょりて、南朝のために気を吐かんとする、おのずかられ一大文章たらずんばまざるものあるをば推知するに足るあり。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
山は燃え、河はさけび、この辺りを中心として、楠氏なんしの軍と、足利勢あしかがぜいとの激戦は、繰返され繰返されて、人皆が、冬野の白い枯木立のように、白骨となり終らなければまないかに思われた。
日本名婦伝:大楠公夫人 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「不遇な楠氏なんし末胤まついんでも、葬られているかと存じましたところ、いかにも先生の仰せられるとおり、神代遺物が出て来ようとは、いささか意外でございました」
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
ボヘミヤのハッスまさに焼殺しょうさつせられんとするや大声よんでいわく「我死するのち千百のハッス起らん」と、一楠氏なんし死して慶応明治の維新に百千の楠公起れり、楠公実に七度ななたび人間に生れて国賊をほろぼせり
基督信徒のなぐさめ (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
楠氏なんしの一族の恩地おんち太郎、その人の遠縁にあたるところの、恩地宗房むねふさの館なのであるが、主人と家来とはうち揃って、赤坂城へ入城した。女子供は和泉いずみあたりの縁者のもとへ立ちのいた。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
すなわち新田にったの残党や、又、北畠きたばたけの残党や、楠氏なんしの残党その者達である。
弓道中祖伝 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)