暮色ぼしょく)” の例文
ここは谷間たにあいのせいか、いちだんと暮色ぼしょくくなって、もう夕闇ゆうやみがとっぷりとこめていたから燕作は泣きだしたくなった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
団々だんだんとして渦巻く煤烟ばいえんは、右舷うげんかすめて、おかかたなだれつつ、長く水面によこたわりて、遠く暮色ぼしょくまじわりつ。
取舵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
暮色ぼしょくほとんど海原をおおい隠す頃になると、小豆島の灯台が大きくまたたきそめて、左手には屋島やしまの大きな形が見えそめて来る。もう高松に着くのに間がないことを思わしめる。
別府温泉 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
ヘリコプターは、暮色ぼしょくに包まれた山々の上すれすれに、あるときは北へ、あるときは東へ、またあるときは西へと、奇妙な針路をとって、だんだんと、奥山へはいりこんだ。
少年探偵長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
生絹の声は殆どいのるように震えをおび、静かにしていられぬふうに車から降り立った。砂白く暮色ぼしょくは濃いあいをかさねた往来のうえに、いまは生絹みずからの顔すら町の人に見分けられぬふうであった。
荻吹く歌 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
ひとつぼし、ふたつ星。……空は凄愴せいそう暮色ぼしょくをもってきた。だが、矢来やらいのそとの群集ぐんしゅう容易よういにそこをさろうとしない。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
暮色ぼしょく到る。
紅玉 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
東山連峰の肩が、墨の虹を吐き流すと、蒼空あおぞらは、見るまに狭められて、平安の都の辻々や、橋や、柳樹やなぎや、石を載せた民家の屋根が、暮色ぼしょくのような薄暗い底によどんでゆく。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
またすでに暮色ぼしょくの頃なので、兵に腰兵糧こしがてらせようとする諸将もあったが
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
馬前ばぜん暮色ぼしょくくなっていた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)