ひか)” の例文
師直の大きい眼も火のようにひかっていた。しかしそれは先刻の眇目の男のように、小坂部の胸を射透す力をもっていないらしかった。
小坂部姫 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
鏡の周囲には奇異なる彫刻があって、店の主人がそれを運んだ時、輝いている灯に映じても、さのみにひからなかった。
おれはいちかばちかの骰子さいをなげた。案の定敵は、ドスを頭上にひからせつつまえのめりにおっかぶさってきた。おれは体をかがめたまま、まるたんぼうを両手ににぎって力まかせの「胴」をいれた。
放浪作家の冒険 (新字新仮名) / 西尾正(著)
それはおそらく鬼とか夜叉やしゃとかいうのであろう。からだはあいのような色をして、その眼は円くひかっていた。その歯はのみのように見えた。
それから丁寧に鏡のおもてのちりを拭き去ると、鏡は日光にかがやく泉のように清くみえて、覆いをかけた下からもひかっていた。しかも彼の興味は、やはり鏡のふちの彫刻にあった。
「お葉が逃げた……。」と、母も眼をひからしたが、「心配おでない。何処どこへ行くものか。うちへ帰ったら又連れて来るから……。」
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
餓えたる虎のごとき眼をひからせて、彼はあたりを睨みまわしたので、賊徒は恐れて手を引いて、女の節操は幸いに救われた。
そばには重太郎が獣のような眼をひからして見張っている。窟の奥には山𤢖らしい怪物ばけものも居る。みちは人間も通わぬ難所なんじょである。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「おお、其方そのほうか。」と、権右衛門は一方の眼を誇りひからせた。「先刻は大儀じゃ。姫も家来もこの通りじゃ。」
小坂部姫 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
なげしに掛けてある槍を卸すと、その黒いさやは忽ち跳ね飛ばされて、氷のような長い穂先が燈火に冷たくひかった。
番町皿屋敷 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
バケツの水が尽きると、甥と下女とが汲み替えてる。蛙は眼をひからしているばかりでちっとも動かない。
二階から (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「え、お前さんは僕の親父を知っているのか。」と、市郎は不審の眼をひからせると、男はたちまかしらった。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
会釈えしゃくする妹を横眼にじろりと視たばかりで、師冬は無言で奥へ通って行った。彼のするどい眼がきょうは取り分けて神経質にひかっているのが小坂部の注意を惹いた。
小坂部姫 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
加賀 眞黒な顏をして眼ばかりひかつた大坊主が……。いつの間にかぬうと首を出して……。
能因法師 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
「兎のような形で、二つの眼が鏡のようにひかっていました」
信西のひとみは忠通と同じように鋭くひかった。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)