時分ころ)” の例文
近頃は風説うわさに立つほど繁昌はんじょうらしい。この外套氏が、故郷に育つ幼い時分ころには、一度ほとんど人気ひとけの絶えるほど寂れていた。
古狢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その時分ころ、立原に東京の人で第二の愛人ができているということを聞いていたので、私は彼をおちつかせるために言った。
我が愛する詩人の伝記 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
今日はまだお言いでないが、こういう雨の降ってさみしい時なぞは、その時分ころのことをいつでもいってお聞かせだ。
化鳥 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ればなう、おそろな音をさせて、汽車とやらが向うの草の中を走つた時分ころには、客も少々はござつたで、うりなといて進ぜたけれど、見さつしやる通りぢやでなう。
二世の契 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
葉山一帯の海岸を屏風びょうぶくぎった、桜山のすそが、見もれぬけもののごとく、わだつみへ躍込んだ、一方は長者園の浜で、逗子ずしから森戸、葉山をかけて、夏向き海水浴の時分ころ人死ひとじにのあるのは
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
はじめなららず……うこれ今頃いまごろ小兒こどもでも玩弄おもちやにして澤山たくさんつた時分ころだ。
月夜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
水は悪いし、流元ながしもとなんざ湿地で、いつでもじくじくして、心持が悪いっちゃあない。雪どけの時分ころになると、庭が一杯水になるわ。それから春から夏へかけてはすももの樹が、毛虫で一杯。
化銀杏 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)