昔者むかしもの)” の例文
わたくしのような昔者むかしものは少ないかと思ったら、いや、どう致しまして……。昔よりも何層倍という人出で、その賑やかいには驚きました。
半七捕物帳:51 大森の鶏 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
おれは昔者むかしものだから、参覲交代を保存したい方なんだが、しかし半蔵や寿平次の意見にも一理屈あるとは思うね。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
昔の士族気質から唯一の登龍門と信ずる官吏となるのを嫌って、ろくでもない小説三昧にふけるは昔者むかしものの両親の目から見れば苦々にがにがしくて黙っていられなかった。
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
まるで一国の帝王がその臣下を引見いんけんする様な、おごそかな儀礼を以て、この昔者むかしものの老婆を驚かせました。
パノラマ島綺譚 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
商売とは、昔者むかしものの言葉でいえば、世渡りの綱で、心にもない事も言って生活のしろを得る——というふうに、そうした言葉で、その折にもそうした意味に用いられました。
平塚明子(らいてう) (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
ことに目にたつのは正月の十五日前で、これを子どもが持つと、ちょうど神主かんぬしさんのしゃく扇子せんすと同じく、彼らの言葉と行ないに或る威力がある、というふう昔者むかしものは今も感じている。
こども風土記 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
文学に於て向上の一路を看出みいだしたのだ、堕落なんぞと思われては心外だと喰って懸ると、気の練れた父は敢てさからわずに、昔者むかしものおれには然ういうむずかしい事は分らぬから、おれはもう何にも言わぬ
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
取り分けてわたくしなぞは昔者むかしものですから、ああいう芝居を見せられると、総身そうみがぞくぞくして来て、思わず成田屋ァと呶鳴りましたよ。あはははは
「わたくしなぞは昔者むかしものですから、新暦になっても煤掃きは十三日、それが江戸以来の習わしでしてね」
半七捕物帳:61 吉良の脇指 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
今じゃあ種痘しゅとうと云いますが、江戸時代から明治の初年まではみんな植疱瘡うえぼうそうと云っていました。その癖が付いていて、わたくしのような昔者むかしものは今でも植疱瘡と云っていますよ。
半七捕物帳:56 河豚太鼓 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)