故道ふるみち)” の例文
と正吉が言う処を、立直って見れば、村の故道ふるみちを横へ切れる細い路。次第だかの棚田にかかって、峰からなぞえに此方こなたへ低い。
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
峠のこの故道ふるみちは、聞いたよりも草が伸びて、古沼の干た、あししげりかと疑うばかり、黄にも紫にも咲交じった花もない、——それは夕暮のせいもあろう。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
車夫は新道の葉かげから、故道ふるみちの穂ずれに立った、お鶴の姿をきょろきょろと、ためつ、すがめつ。
わか紫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
渡すを、受ける、じっと手を、そのまま前垂の胸に入れて、つッと行く白い姿、兎が飛ぶかと故道ふるみちへ。此方こなたは仰ぐ熱海の空、さっと吹く風に飜って、紺の外套の裾があおった。
わか紫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あゝ前刻さツきのお百姓ひやくしやうがものゝ間違まちがひでも故道ふるみちにはへびうといつてくれたら、地獄ぢごくちてもなかつたにとりつけられて、なみだながれた、南無阿弥陀仏なむあみだぶついまでも悚然ぞツとする。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
ああさっきのお百姓がものの間違まちがいでも故道ふるみちには蛇がこうといってくれたら、地獄じごくへ落ちても来なかったにと照りつけられて、なみだが流れた、南無阿弥陀仏なむあみだぶつ、今でもぞっとする。
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
中に一条ひとすじ、つるくさ交りの茅萱ちがや高く、生命いのちからむと芭蕉の句の桟橋かけはしというものめきて、奈落へおつるかと谷底へ、すぐに前面むこうの峠の松へ、蔦蔓かずらで釣ったようにずる故道ふるみちの、細々と通じているのが
わか紫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)