放浪ほうろう)” の例文
かぜは、こえひくく、「放浪ほうろううた」をうたいながら、うみほうをさしてってしまいました。あとで、太陽たいようあわれなをじっとながめたのであります。
明るき世界へ (新字新仮名) / 小川未明(著)
如何なる不遇の詩人も、爾の懐に憂をることが出来る。あらゆる放浪ほうろう為尽しつくして行き処なき蕩児も、爾の懐に帰って安息を見出すことが出来る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
かれは放浪ほうろうする人々のように、宿直べやに寝たり、村の酒屋に行って泊まったり、時には寺に帰って寝たりした。自炊がものういので、弁当をそこここで取って食った。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
それから少年は町から町へ漂泊ひょうはくすることを覚えた。汽車にも乗せた人があるらしい。奥羽おうう、北国の町にもかれ放浪ほうろう範囲はんいは拡張された。それらの町々でも少年の所作に変りはなかった。
みちのく (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
後年の孔子の長い放浪ほうろう艱苦かんくを通じて、子路ほど欣然きんぜんとして従った者は無い。
弟子 (新字新仮名) / 中島敦(著)
それには、おれがおまえをきたえるよりしかたがない。いまおまえは、まだちいさくておしえてもうたえまいが、いんまにおおきくなったらおれおしえた『曠野こうやうた』と、『放浪ほうろううた』とをうたうのだ。
明るき世界へ (新字新仮名) / 小川未明(著)