操觚そうこ)” の例文
親類の子供もわたくしの家には寄りつかないようになっているから、今では結局はばかるものはない。ただひとり恐るきは操觚そうこの士である。
濹東綺譚 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
それ故に同じ操觚そうこでも天下の木鐸ぼくたくとしての新聞記者を希望して、官報局をめた時既に新聞記者たらんとして多少の運動をもした位だから
二葉亭追録 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
た文の妙なるにしかまことに其の文の巧妙なるには因るといえどの圓朝のおじの如きはもと文壇の人にあらねば操觚そうこ
怪談牡丹灯籠:01 序 (新字新仮名) / 坪内逍遥(著)
私の記憶にして誤りなくんば癸亥大震災後、ようやくに文学というもの企業化し、全くのジャーナリズム王国築かれて操觚そうこ世界へ君臨するようになって以来のこととおもう。
大抵操觚そうこに長じていたから、矢野龍渓の『経国美談』、末広鉄腸の『雪中梅』、東海散士の『佳人之奇遇』を先駈として文芸の著述を競争し
その二は既に高等専門の学業をもへ志さだまりて後感ずる事ありて小説を作るものなり。桜痴福地おうちふくち先生は世の変遷に経綸けいりんの志を捨て遂に操觚そうこの人となりぬ。
小説作法 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
二十はたちか二十一で一躍して数年以上の操觚そうこの閲歴を持つ先輩を乗越して名声を博し、文章識見共に当代の雄を以て推される耆宿きしゅくと同格に扱われた。
美妙斎美妙 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
或人の話に現時操觚そうこを業となすものにして、その草稿に日本紙を用うるは生田葵山いくたきざん子とわたしとの二人のみだという。亡友唖々ああ子もまたかつて万年筆を手にしたことがなかった。
十日の菊 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
馬琴は二六時中、操觚そうこに没頭するか読書に耽るかして殆んど机に向かったぎりで家人と世間咄一つせず、叱言をいう時のほかは余り口を利かなかったらしい。
八犬伝談余 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
何という凄惻せいそくの悲史であろう。同じ操觚そうこに携わるものは涙なしには読む事が出来ない。
八犬伝談余 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
夫までは殆んど道楽だった操觚そうこをしてプロフェッショナルとしても亦存在し得るような便宜を与えたのは日本の文芸の進歩を助くるに大に力があったのを何人も認めずにはおられぬだろう。
九華は初めの中こそ新体詩をひねくって、妖怪ばけものを持出すので新体詩壇の李長吉りちょうきつと同人間に称されていたが、高商卒業後は算盤そろばんが忙がしくなって、何時いつにか操觚そうこを遠ざかってしまった。
この初陣ういじんの功名に乗じて続いて硯友社の諸豪とくつわならべて二作三作と発表したなら三唖もまた必ず相当の名を成して操觚そうこの位置を固めたであろうが、性来の狷介と懶惰とズボラとが文壇にも累をなし