揺籃ゆりかご)” の例文
旧字:搖籃
自分はよく、なんの用もないのに、この渡し船に乗った。水の動くのにつれて、揺籃ゆりかごのように軽く体をゆすられるここちよさ。
大川の水 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
さあ、もう泣くのは沢山! おうちへ帰るんだよ! お母ちやんがカーシャを拵らへて呉れるよ、さうして揺籃ゆりかごの中へ坊やを寝かして、かう唄ふよ。
私はこの屋根裏部屋で「こうのとり物語」という習作を書いた。鸛が揺籃ゆりかごへ置いていった子供、若い日のアンデルセンのことを書いた。鳴尾君に読んでもらった。
西隣塾記 (新字新仮名) / 小山清(著)
また保母めいた愛情をもっていて、人を揺籃ゆりかごに結びつける子供時代のくだらない事柄を、しきりにもち出した。
揺籃ゆりかごに入れて、子守唄をうとうて聞かせた頃から——また、この母が膝に抱いて眠らせた頃から——おまえの耳へ母はご先祖のお心を血の中へおしえこんだつもりです。
三国志:02 桃園の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
些細ささいなものもその空虚のうちにあっては巨大となる。得も言えぬ女声の音調は汝を揺籃ゆりかごに揺すり、汝のために消え失せし世界を補う。魂をもって愛撫せらるるのである。
私は今迄に揺籃ゆりかごを見たことがない。また一人放り出されて、眼玉の出る程泣き叫んでいる赤坊も見たことがない。事実、赤坊の叫び声は、日本では極めて稀な物音である。
まるでここが月光の揺籃ゆりかごででもあるかのように、月の光がいかにもめでたくいかにもやさしくまどろんでいる世界、そこには生の気配などいくら捜してもありはしないけれど
イオーヌィチ (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
この娘と母親の二人が相談して、赤ん坊の揺籃ゆりかごを私の寝床に作りなおしてくれました。
その後この女愛らしい男児を生むと、毎夜靴を作る男ありて「眠れ眠れわが子、汝をわが子と知った日にゃ、汝の母は金の揺籃ゆりかごと金の著物きもので汝を大事に育つだろ、眠れ眠れわが子」
そうしてその真ん中の小さな岩小屋は自分たちのような山の赤ん坊の寝る揺籃ゆりかごみたいにおもえてしようがなかった。言い方が可笑おかしいかも知れないが、それほどいやに山が親しみぶかく見えたんだ。
それは今ではもう、彼の青春の揺籃ゆりかごと呼んでいいかも知れない。……
灰色の眼の女 (新字旧仮名) / 神西清(著)
西洋の詩にいう揺籃ゆりかごの歌のような、心持のいい柔な響である。
鐘の声 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
揺籃ゆりかごから棺桶までの道中に
揺籃ゆりかごからとり出される。
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
その昔揺籃ゆりかごに寝て
一握の砂 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
母は麻梳グレーベニの前で長い長い絲を手繰りだしながら、片方の足で揺籃ゆりかごをゆすぶりゆすぶり、子守唄をうたつてゐたつけが、その唄声が今もわしの耳の中で聞えてをりますわい。
足で揺籃ゆりかごを動かしたくさんの子供に取り囲まれてる母親を持ってる者はないか。君らのうちで、かつて育ての親の乳房ちぶさを見なかった者があるならば、手をあげてみたまえ。
揺籃ゆりかご、ラッパ、太鼓、木馬などが、光線のほとばしり出てる竪琴たてごとを取巻いてる絵だった。
それは石灰で白く塗った大きな室であって、型付き更紗さらさの布が掛かっている寝台が一つと、片すみに揺籃ゆりかごが一つと、数脚の木製の椅子いすと、壁にかけてある二連発銃が一つあった。
赤児あかご揺籃ゆりかごの中でうごめいている。老人は戸口に木靴を脱ぎすててはいって来たが、歩く拍子に床板ゆかいたきしったので、赤児はむずかり出す。母親は寝台の外に身をのり出して、それをすかそうとする。
奥の方に、一つのガラス戸を通して、一対の小さなまっ白な寝床が見えていた。アゼルマとエポニーヌとの寝床であった。その向こうに柳の枝でできたとばりなしの揺籃ゆりかごが半ば見えていた。
すべて人の生涯はそういう両端のうちにはさまれている。そして滅落や至福かの板ばさみは、いかなる場合よりも恋愛において最もよく迫ってくる。愛は死でなければ生である。揺籃ゆりかごひつぎかである。
しかもなお赤児の揺籃ゆりかごに対しては人のいい笑いを浮かべた。
聖母様、リボンで飾った揺籃ゆりかご