つま)” の例文
順々に運ばれる皿数コーセスの最後に出た独活アスパラガスを、瑠璃子夫人がその白魚のやうな華奢な指先で、つまみ上げたとき、彼女は思ひ出したやうに美奈子に云つた。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
「はて、返事がえの、し可し。」とかごりたる菓子をつまめば、こらえかねて
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「何でもないさ、東京近くのこの温泉なら先生の弟子だといってちょっと楽器をつまんでみせれば、座敷や家庭教師の口はいくらでもある。まあこのくらいな横着は先生にも大目に見て頂くさ」
呼ばれし乙女 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
それから黒い手提鞄を椅子の横に置いて、パッと拡げると、その中にゴチャゴチャに投げ込んであった理髪用のはさみや、ブラシをふたの上につまみ出しながら、私を見てヒョッコリとお辞儀をした。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
宿酔ふつかよい海豹あざらし恍惚うっとりと薄目を開けると、友染を着たかもめのような舞子が二三羽ひらひらと舞込んで、眉をでる、鼻をつまむ、花簪はなかんざし頭髪かみのけく、と、ふわりと胸へ乗って、掻巻かいまき天鵞絨びろうどの襟へ
白花の朝顔 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「おっ、くせえ、ふわふわ湯具を蹴出すない。」と鼻をつまみて舌を吐きぬ。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)