措置そち)” の例文
しかし、光栄ある一族の中から犯人を出すまいとすると、そこになんらかの措置そちで、覆わねばならぬ必要に迫られたのです。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
とにかく妻子を死なせてはならない。そのために万全の措置そちを講じなければならぬ。しかし、私には金が無かった。
薄明 (新字新仮名) / 太宰治(著)
いかになることかとびくびくしていた生徒共は校長の措置そちにほっと安心した、たい焼き屋はすぐに退却した
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
依頼人がロス氏というビジネス界と市政の大立物おおだてものなので、とくに大事をとったにすぎなかったのかもしれないが、この署長の措置そちは、おおいに機宜きぎを得たものとして
チャアリイは何処にいる (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
結婚の困難な現代に処する婦人の覚悟として、これは甚だ立派な態度、健気けなげ措置そちと申す外はない。
女子の独立自営 (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
本署は好意的に、破格といってもいい寛大な措置そちを取ることを考慮しているんですよ。あの悪漢を
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
彼は、あらゆるへんに応じうる万全な措置そちをとっていた。新田が自暴自棄となって、みかどを監禁し、玉砕に出ぬともかぎらぬ——ことまで予想にいれていたからだった。
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一郎の措置そちがもう一秒遅かったとしたら、教授のひたいには孔があいていたかもしれない。
恐怖の口笛 (新字新仮名) / 海野十三(著)
その時貞白は浜照が身受みうけの相談相手となり、その仮親かりおやとなることをさえ諾したのである。当時兄の措置そちを喜ばなかった五百が、平生青眼せいがんを以て貞白を見なかったことは、想像するにあまりがある。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
あの緊密な包囲形をどう潜り抜けたものか、また伸子が犯人で、法水のりみずの機智から発した包囲を悟り、絶体絶命の措置そちに出たものであろうか……。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
措置そちは、よくよくなことだった。窮余の急、やむをえなかったともいえようか。
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一大決心をし、生命を賭しての措置そちであったのだが、疑いもなく、暴力行為だ。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
措置そちを考え、あれこれと、名人の指が盤上へ、一石いっせき一石と打ち下ろすように、自室から、命令を出してはいたが、独りでいるその居室は、それ以外には、何の気配もせきこえもしなかった。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
はしの間にも、彼は、そのさかんなる食欲と同じように、絶えまなく時務を聴き、処置を断じ、また発足ほっそく措置そちをあれこれと左右へ命じておくなど、飽くまで旺盛な気力と周到しゅうとうな頭脳を働かせていた。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)