捧呈ほうてい)” の例文
しからば願意をきき届けようと言って、その旨を耕雲斎に確答し、一橋中納言に捧呈ほうていする嘆願書並びに始末書を受け取って退営した。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
その間メルキオルは、椅子いすの上に反り返り、天井を眺めて、あごをゆすぶりながら、物知り顔に次の捧呈ほうてい文の文体を吟味していた。
上々官金僉知きんせんち朴僉知ぼくせんち喬僉知きょうせんちの三人はいずれも広縁に並んで拝をした。ここでは別に書類を捧呈ほうていすることなどはない。茶も酒も出されない。
佐橋甚五郎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
のみならず捕獲したポルトガルの商船から発見したものだと称して偽造の密書——いわゆる「オランダのご忠節」をもったいらしく捧呈ほうていしたりしたのである。
夫人よ、私は自分の驚嘆と敬意とを表明して、仏蘭西フランス婦人の上に与へられたあなたの非凡にして公明な批判に対する感謝をあなたに捧呈ほうていするのがこの手紙の目的でした。(下略)
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
信任状を捧呈ほうていせられたばかりの新大使であったが、当時帝国ホテルで朝野ちょうやの歓迎宴を張った際、鷲尾侯も出席して、今日の御訪問も、その時からの御約束が延び延びになっていた訳だ。
黄金仮面 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
人夫中の一人喜作なるもの両三日前より屡々しば/\病の為めにくるしみ、一行も大に憂慮いうりよせしが、文珠岩を発見はつけんするやいなただちに再拝してめし一椀、鰹節一本とを捧呈ほうていし、祈祷きとうときうつおはりてかたじけく其飯をきつ
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
そして長くテーブルにすわって、ていねいにそれを書き直し、愛情のあふれた捧呈ほうてい文をつけ、下部に署名をし、日付と時間とを書き入れた。
僕は日本からとり寄せて捧呈ほうていすることを約した。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
するとちょうどそのページに、楽曲の初めに、ドイツ語の捧呈ほうてい文が読まれた。
クリストフはそこに、ひそかな捧呈ほうてい文や頭字や日付などを書いておいた。
室の隅々すみずみまで方々に、将校やテナー歌手や楽長や友だちなどの写真がごっちゃにかかっていた——捧呈ほうていの文句がついていて、ほとんどどれにも、詩が、少なくともドイツで詩と称せられてる句が