振仰ふりあお)” の例文
種彦は何というわけもなく立止って梢を振仰ふりあおいだ。枯枝の折れたのが乾いた木の皮と共に木葉このはの間を滑って軽く地上に落ちて来る。
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
婦人おんな炉縁ろぶち行燈あんどう引附ひきつけ、俯向うつむいてなべの下をいぶしていたが、振仰ふりあおぎ、鉄の火箸ひばしを持った手をひざに置いて
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「これは?」と驚いて振仰ふりあおぐ如来の顔から、今までの微笑が消えた。
だが、やがて振仰ふりあおいだときにお蘭はびっくりしてさけんだ。
みちのく (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
薄暗いうち振仰ふりあおいで見るばかりの、たけながき女のきぬ、低い天井から桂木のせなのぞいて、薄煙うすけむり立迷たちまよふ中に、一本ひともと女郎花おみなえし枯野かれのたたずんでさみしさう、しかなんとなく活々いきいきして、扱帯しごき一筋ひとすじまとうたら
二世の契 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)