押分おしわ)” の例文
この時、群集ぐんじゅ押分おしわけて、捫着もんちゃくの中へ割って入ったのは、駐在所の塚田つかだ巡査。年のわかい、色の黒い、口鬚くちひげの薄い、小作りの男であった。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
諏訪池には自動車道ドライブ・ウェーが通じているが、まだ利用されないので、所々くさ茫々ぼうぼうたる中を押分おしわけながら私達の自動車は通って行く。
雲仙岳 (新字新仮名) / 菊池幽芳(著)
感歓かんくわんまりて涙にむせばれしもあるべし、人を押分おしわくるやうにしてからく車を向島むかふじままでやりしが、長命寺ちやうめいじより四五けん此方こなたにてすゝむひくもならず
隅田の春 (新字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
したへ、したへ、けむりして、押分おしわけて、まつこずゑにかゝるとすると、たちままたけむりが、そらへ、そらへとのぼる。斜面しやめん玉女ぎよくぢよむせぶやうで、なやましく、いきぐるしさうであつた。
露宿 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
敦夫は臥破がばっとはね起きるや、気絶している母を抱上げて洞穴を出る、もうあとは夢中で、蘆を踏倒し灌木を押分おしわけて街道へ出た。——そこから二三丁西に小作人の村田与二郎の家がある。
殺生谷の鬼火 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)