扶持米ふちまい)” の例文
切米きりまい、お扶持米ふちまい御役料おやくれうの手形書替へをする。札差の前身は、その役所近くに食物や、お茶を賣つてゐた葭簾よしずばりの茶店だつたのだ。
花火と大川端 (旧字旧仮名) / 長谷川時雨(著)
「おれもこんどは落ちつくぜ。うム、御恩賞と扶持米ふちまいを大事に守って、昔のとおり川島の原士はらしとなって、この屋敷を建てなおすつもりだ」
鳴門秘帖:05 剣山の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かかる次第であるから大阪の豪商は暗に天下の諸大名を眼下に見下だしていた。貸してくれた際には、別に扶持米ふちまいを与えあるいはそれを増すこともあった。
鳴雪自叙伝 (新字新仮名) / 内藤鳴雪(著)
彼等とても、お蔭で、扶持米ふちまいを切り替えるのに、大分損をしているのだから、恨みは、民衆と同じであった。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
扶持米ふちまい取りの役付き家臣はなつかしい家屋敷を買いもどしたというのだ。采邑地さいゆうち持ちであったものは地券を受けてその同じ土地の地主になることが出来たというのだ。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
洋学生徒の数は次第々々にえるからその教授法に力をつくし、又家の活計くらしは幕府に雇われて扶持米ふちまいもらうてソレで結構暮らせるから、世間の事にはとん頓着とんじゃくせず、怖い半分
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
池田 要するに、扶持米ふちまいを貰って食わせてもらっておるから、頭をさげる。それだけのことじゃあないか。おれは、こういう世の中の仕組みは、遠からず瓦解がかいするものと思う。
稲生播磨守 (新字新仮名) / 林不忘(著)
自分もかみからもらう扶持米ふちまいを、右から左へ人手に渡して暮らしているに過ぎぬではないか。
高瀬舟 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
そのとき千神市蔵が金を出してもみ消してくれたが、しかし役目は解かれた。……役の手当が無くなり、融通が止った。扶持米ふちまいをかたの借金の質ぐさもながくは続かない、物を売りだした。
(新字新仮名) / 山本周五郎(著)
大名の米でさえも、警護が薄いと途中で飢えたる民が襲いかかって奪ってしまう、それだから、一台か二台の車に積んで運ぶ扶持米ふちまいでさえ、さむらい共が四五十人して守って引かせたものだ。
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
すなわち一日一人の扶持米ふちまいを、五合と立てた計算のもとである。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
「ばかなッ、お前に神があるか。お前はその醜い肉体を生きのばす扶持米ふちまいと、囚人の後家と、不良児のお蝶とをうける代価に、とうの昔、たった一ツの神まで売り払った畜生だ」
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
自分も上から貰ふ扶持米ふちまいを、右から左へ人手に渡して暮してゐるに過ぎぬではないか。
高瀬舟 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
奥平おくだいらからも扶持米ふちまいもらって居たので、幕臣でありながらなかばは奥平家の藩臣である。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
自分の扶持米ふちまいで立ててゆく暮らしは、おりおり足らぬことがあるにしても、たいてい出納すいとうが合っている。手いっぱいの生活である。しかるにそこに満足を覚えたことはほとんどない。
高瀬舟 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
そこで女房は夫のもらう扶持米ふちまいで暮らしを立ててゆこうとする善意はあるが、ゆたかな家にかわいがられて育った癖があるので、夫が満足するほど手元を引き締めて暮らしてゆくことができない。
高瀬舟 (新字新仮名) / 森鴎外(著)