手癖てくせ)” の例文
百にも、おしげにも、わけがわからなかったのである。兄弟子たちは、出てゆく百へうしろ指をさして、手癖てくせがわるいとささやき合った。
野槌の百 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ああ無闇矢鱈むやみやたらに料理をこしらえるのか? どうして蔵の中があんなにからになっているのか? どうして女中頭はああ手癖てくせが悪いのか? どうして下男どもはあんなに不潔で
いずれも同説で、れからおかあがって茶屋見たような処に行て、散々さんざん酒をのんでサア船に帰ると云う時に、誠に手癖てくせの悪い話で、その茶屋の廊下の棚の上に嗽茶椀うがいぢゃわんが一つあった
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
餓鬼がきの折から手癖てくせが悪く……じゃあ大変だが、まあっとばかりペンペンを仕込まれたのが因果で、ず小田原を振出ふりだしに、東海道を股にかけという程でもございませんが
影:(一幕) (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
偶然三造が見かけによらない悪人であることを発見しました。奴はあれで手癖てくせが悪いのです。脱衣場に忘れ物などをして置くと、こっそり取ってしまうのです。私はその現場を見たことがある。
湖畔亭事件 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「泥棒という声が聞えたが、部屋を出ても、まだ手癖てくせがやまねえな。……おお彼方むこう老婆としよりが仆れている。甲州者はおれが捕まえているから、あの老婆としよりいたわって来い」
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)