手帕ハンケチ)” の例文
叔母が別品だと言った助手が、西洋料理などを取り寄せて食べているのを見て、お庄は時々口に手帕ハンケチを当てて思い出し笑いをした。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
あたかも、舞台を下りてきた俳優と、贔屓ひいきの女客のごとき観がある。汗にぬれた手帕ハンケチを、巧雲は、さもいとしそうに、それで自分の唇をつつむ。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
とんとんとん梯子段はしごだんを上って来る人の気配がしました。旦那様は急に写真を机の引出へ御隠しなすって、一口牛乳を召上りました。白い手帕ハンケチで御口端をきながら、聞えよがしの高調子
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
細君は手帕ハンケチで汗ばんだ額などを拭いていたが、間もなく上へあがって挨拶あいさつをした。そして時々じろじろとお増の方を眺めた。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
如海にょかいは、いちばんあとから、上気した青い頭に湯気をみせながら歩いていた。すると側へ寄り添って行った女が、そっとにお手帕ハンケチを袖から渡した。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しまいには絹手帕ハンケチも鼻をんで捨て、香水は惜気もなく御紅閨おねまに振掛け、気に入らぬ髪は結立ゆいたて掻乱かきこわして二度も三度も結わせ、夜食好みをなさるようになって、糠味噌ぬかみその新漬に花鰹はながつおをかけさせ
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
芳太郎はそこにあった盃洗はいせんを取って投げつけるし、お庄は胸から一杯に水を浴びながら、橋廊下の方へ逃げて行って、手帕ハンケチ頚首えりくびなどを拭いていた。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
白衫はくさん銀紗ぎんさ模様という洒落しゃれた丸襟の上着うわぎに、紅絞べにしぼりの腰当こしあてをあて、うしろ髪には獅子頭ししがしらの金具止め、黄皮きがわの靴。そして香羅こうら手帕ハンケチを襟に巻き帯には伊達なおうぎびんかざしには、季節の花。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「お庄ちゃんも、ここに辛抱おしなさい。ここの家には、相当に金もあるというじゃないか。」と、磯野は手帕ハンケチで眼鏡を拭きながら、お庄の顔を眺めた。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
子供は母親の顔をしかめて、いきむたんびに傍へ寄り添って、大人がするように自分の小さい手をかしてやった。そして手帕ハンケチで玉のようににじみ出る鼻や額の汗を拭いた。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
そしていつも酔っ払って、隣の客に喰ってかかりなどする隠居のそばに、浅井もお増もはらはらしていたが、お芳は手帕ハンケチを口にあてて、顔をあからめながら、後でくすくす笑っていた。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)