所狭ところせ)” の例文
旧字:所狹
火近うなりて物の焼くる音おそろしきに、大路も人多くなりて所狭ところせく、ようせずばあやまちもありぬべし、疾く逃ぐるこそよかなれと人々云ふ。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
文三はホッと吐息をついて、顧みて我家わがいえの中庭を瞰下みおろせば、所狭ところせきまで植駢うえならべた艸花くさばな立樹たちきなぞが、わびし気にく虫の音を包んで、黯黒くらやみうちからヌッと半身を捉出ぬきだして
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
焔はけふり揉立もみたてられ、けむりは更に風の為に砕かれつつも、蒸出す勢のおびただしければ、猶ほ所狭ところせみなぎりて、文目あやめも分かず攪乱かきみだれたる中より爆然と鳴りて、天も焦げよと納屋は一面の猛火と変じてけり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
ほのかに見える宝物が所狭ところせきまで置いてある。
筋違すぢかひの広き大路には、所狭ところせきまで畳積みかさね、屏風戸障子とさうじなどもておのがじゝ囲ひたり。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)