房総ぼうそう)” の例文
旧字:房總
日東にっとうサルベージ会社の沈没船引きあげのしごとが、房総ぼうそう半島の東がわにある大戸おおと村の沖あいでおこなわれていました。
海底の魔術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
ここ厩橋城を本拠として、房総ぼうそうの小国を糾合きゅうごうし、彼の小田原攻略の大策は、いまその半途にかかりつつ、明けて永禄四年の新春を、この城中に迎えたわけであった。
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
上には青空か白雲、時には飛行機が通る。駿河するがの富士や房総ぼうそうの山も見える日があろう。ついでに屋上さらに三四百尺の鉄塔を建てて頂上に展望台を作るといいと思う。
銀座アルプス (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
数ヶ月前から健康を害した為房総ぼうそう屏風浦びょうぶがうらにあるささやかな海岸の別荘へ移って転地療養をしてはいたが、その後の経過も大変好く最近ではほとんど健康を取戻していたし
花束の虫 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
伊豆や相模さがみの歓楽郷兼保養地に遊ぶほどの余裕のある身分ではないから、房総ぼうそう海岸を最初はえらんだが、海岸はどうも騒雑そうざつの気味があるので晩成先生の心にまなかった。
観画談 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
此地眺望最も秀美、東は滄海そうかい漫々まんまんとして、旭日きょくじつ房総ぼうそうの山に掛るあり、南は玉川たまがわ混々こんこんとして清流の富峰ふほうの雪に映ずるあり、西は海老取川えびとりがわを隔て云々、大層賞めて書いてある。
悪因縁の怨 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
八月には、僕は房総ぼうそうのほうの海岸でおよそ二月をすごした。九月のおわりまでいたのである。帰ってすぐその日のひるすぎ、僕は土産みやげかれい干物ひものを少しばかり持って青扇を訪れた。
彼は昔の彼ならず (新字新仮名) / 太宰治(著)
わたしの知る限りでも、東京で雷雨の多いのは北多摩たま郡の武蔵野町から杉並区の荻窪おぎくぼ阿佐ヶ谷あさがやのあたりであるらしい。甲信こうしん盆地で発生した雷雲が武蔵野の空を通過して、房総ぼうそうの沖へ流れ去る。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
御殿山ごてんやま。七十日目ごろさかんなり房総ぼうそう遠霞えんか海辺の佳景、最もよし。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
あの座敷に寝ころんで見たら、房総ぼうそうの海も江戸の町も、一望ひとめであろうと思われる高輪たかなわ鶉坂うずらざかに、久しくかかっていた疑問の建築たてものが、やっと、この秋になって、九分九厘まで竣工できた。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
南のほうには相模さがみ半島から房総ぼうそう半島の山々の影響もそれと認められるように思った。
春六題 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)