懐疑かいぎ)” の例文
旧字:懷疑
あの女に逢うまでは、このような疑惑は、ほとんど起らなかったのだ。あのバーミンガムの女こそは、懐疑かいぎ陰鬼いんきみたいなものであった。
英本土上陸戦の前夜 (新字新仮名) / 海野十三(著)
彼はふと懐疑かいぎする。大いに悩む日もあった。しかし彼にはこの頃、ひとつの慰安の場がなくもなかった。家庭がよみがえっていたからである。
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
近代的懐疑かいぎとか、近代的盗賊とか、近代的白髪染しらがぞめとか——そう云うものは確かに存在するでしょう。しかしどうも恋愛だけはイザナギイザナミの昔以来余り変らないように思いますが。
或恋愛小説 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
その人々の仰ぐ父と、江戸市民たちがそしる父と、べつな人間でもないのに——と、子である彼には、世界が懐疑かいぎされてならなかった。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「あッはッはッはッ」と参謀フョードルは腹をかかえて笑い出した。「君の説はよく解った。そういう種類の説は昔から非常に簡単な名称が与えられているのだ。曰く、懐疑かいぎ主義とネ」
(新字新仮名) / 海野十三(著)
とはいえ、すべてをそう疑ぐっていたらりもなくなって、遂には、自分というものまで懐疑かいぎしなければならなくなってしまう。
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
事実そのものが劇的であり過ぎるということにかえって、懐疑かいぎをもち、これを通俗中の巷説こうせつと片づけてしまいたいものがあるのではなかろうか。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
忌憚きたんなく申しますれば、手の者の将士ことごとく、おいいつけに対し、懐疑かいぎしておりまする。かくいう鹿之介も、そのひとりにございますが」
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかし彼のひとみは何らの懐疑かいぎもたたえてはいない。この大きな事実を誰よりも正確に見つめている眼である。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その結果よく「本当の歴史はわからない」という懐疑かいぎちている。では、かつての歴史はどうなのか?
随筆 新平家 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この人にこそ、日頃の懐疑かいぎただし、もだえを打明けてみよう。そして、礼をあつうして師事してもよい。
剣の四君子:02 柳生石舟斎 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
民部みんぶ龍太郎りゅうたろうも、一とうの人々は、見しらぬたびさむらい油断ゆだんはならないとたぶんな懐疑かいぎをもった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかし、その間にも、彼として、時には師の人格に全く懐疑かいぎしないわけでもなかった。
剣の四君子:05 小野忠明 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
諸国から懐疑かいぎされたが、野田城の囲みを解いて、急遽、甲府へ帰って来る途中、いよいよ重態に堕ちて、躑躅ヶ崎の甲館へもどったときは、もう遺骸であったというのが真相らしい。
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかし、彼の降伏を、毛利方でも初めから充分に懐疑かいぎしていた。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)