悦楽えつらく)” の例文
旧字:悦樂
それはこんなさびしい田舎暮いなかぐらしのような高価な犠牲ぎせいはらうだけのあたいは十分にあると言っていいほどな、人知れぬ悦楽えつらくのように思われてくるのだった。
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
「じたい関東武者などは、物の値打ちも余暇の愉しみようも知らぬ不風流者。ひとつ彼らにもこの悦楽えつらくかってやろう。——女狩りばかりがのうでもあるまい」
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
もっとも彼の場合、その遣る瀬なさは、自分の悦楽えつらくが思うようにかなえられないと云うよりは、此の若い妻に申訳ないと云う気持から来る方が多いのではあったが、………
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
自分の悦楽えつらくのためにはこの船長はおれたちの生命を、いつでもふかの前に投げてやるだろうに。
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
平岡はふに従つて、段々くちが多くなつてた。此男このをとこはいくら酔つても、なか/\平生を離れない事がある。かと思ふと、大変に元気づいて、調子に一種の悦楽えつらくを帯びてる。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
そうしてあらゆる淫蕩いんとうと、そうしてあらゆる悦楽えつらくとに夜昼となく溺れていた。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
女の良人楊雄ようゆうの目をぬすむ恐ろしさは封じえないが、それにもまさる秘密な悦楽えつらくそそりはれた果実のように巧雲の体からがれる。巧雲もまた、いまは触れなば落ちん風情ふぜいで、男の手へ。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)