後退あとすざ)” の例文
馬は、重荷のために後退あとすざりするのを防ごうとして、ひづめにこめた満身の力でふるえながら、脚をひろげ、鼻息をふうふうはずませている。
乞食 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
彼女は、盲人めくらのそばをすれすれに歩き、わざとひじをぶつけたり、足を踏んだりするのである。彼はしかたがなく、後退あとすざりする。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
そこから僕はすこし後退あとすざりしながら、それをぼんやり見てゐると、僕のそばをリュックを背負つた三人の男達が默々として通り拔けて行つた。
牧歌:恩地三保子嬢に (旧字旧仮名) / 堀辰雄(著)
さあ皆が大いにあわててバックをして見たが一生懸命漕いだ勢いでどろに深くい込んだ艇はちっとも後退あとすざりをしない。
競漕 (新字新仮名) / 久米正雄(著)
女は思わず後退あとすざりをした。しかし、そうした心が恥かしくもあり、男のことを思えば気の毒にもなって、その切なる頼みを無下に拒むわけにも行かなかった。
暗中の接吻 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
と、心の中でつぶやいた——おやじは、兄貴のフェリックスにはちゃんと接吻をした。後退あとすざりなんかしないで、するままにさせていた。どういうわけで、このおれを避けるのだ。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
彼は後退あとすざりをして、犠牲者の様子を覗きこんだ。小さな懐中電燈のあかりだけでは、シャツの上から刺した創口きずぐちがどんな風か、血が出たかうかも見分けがつかなんだ。
空家 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
それからもう一度、前へこごみかけて、また後退あとすざりをした。にんじんは、そのほっぺたをと思ったのだが、それも、だめだった。鼻の頭をやっとかすったぐらいだ。彼は、空間に接吻をした。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
真暗で馬は見えないけれど、いななきを便りに行ってみると、元の場所から少し退さがったところに、馬は相変らず横っ倒れになっていた。車台がそれだけ後退あとすざりをしたのである。
乞食 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
と同時に馬がたじたじと後退あとすざりをしたものだから、馬子はアッ! と叫んで打倒ぶったおれた。
乞食 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)