往反わうへん)” の例文
その夜、奥の院に仏法僧鳥ぶつぽふそうくのを聴きに行つた。夕食を済まし、小さい提灯ちやうちんを借りて今日の午後に往反わうへんしたところを辿たどつて行つた。
仏法僧鳥 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
然るに生憎あいにく横井は腸をいためて、久しく出勤しなかつた。邸宅の辺を徘徊はいくわいしてうかゞふに、大きい文箱ふばこを持つた太政官だじやうくわんの使がしきり往反わうへんするばかりである。
津下四郎左衛門 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
それから東町奉行所との間に往反わうへんして、けふ十九日にあるはずであつた堀の初入式しよにふしきの巡見が取止とりやめになつた。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
五六人総勢十人ぐらゐの子供等が、さういふ日にほしいままに道草を食つて毎日おなじ道を往反わうへんする。
念珠集 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
再びのぼつたころほひには、もはや起行することが出来ぬので、蒲伏ほふくして往反わうへんした。そして昏々として睡つた。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
江戸城へ往反わうへんする、歳暮拜賀の大小名諸役人織るが如き最中に、宮重の隱居所にゐる婆あさんが、今お城から下がつたばかりの、邸の主人松平左七郎に廣間へ呼び出されて
ぢいさんばあさん (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
杏坪が江戸に往反わうへんしなくなつたのは何故であらうか。郡奉行こほりぶぎやうにせられたのが此年の七月ださうだから、早く年初若くは前年より東遊せずにゐたのであらうか。頼氏の事に明るい人の教を受けたい。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)