形成かたちづく)” の例文
こうしてこの一群の立ち去った後は、嶮しい山と急流はや渓川たにがわとで、形成かたちづくられている十津川郷の、帯のように細い往来には、人の影さえまばらであった。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
ノーノー、今に科学者がすべてを征服するの時が来ります、宗教の時代は過ぎました、あらゆる宗教は皆迷信を要素とするのに科学の勝利のみが着々と現実の文明を形成かたちづくる。
山道 (新字新仮名) / 中里介山(著)
堂をめぐつていろ/\の店があり、楊弓場、小料理屋と、一つの別天地を形成かたちづくつてをります。
周囲の混雑と対照を形成かたちづくる雨の停車場ステーションわびしい中に立って、津田が今買ったばかりの中等切符ちゅうとうきっぷを、ぼんやり眺めていると、一人の書生が突然彼の前へ来て、旧知己のような挨拶あいさつをした。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
この時代ころのお茶の水といえば、樹木と藪地と渓谷たにと川とで、形成かたちづくられた別天地で、都会の中の森林地帯であった。
仇討姉妹笠 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
線をし、筋を為し、円を描き、方形を形成かたちづくり、流れこごり、紙帳の面貌おもては、いよいよ怪異を現わして来た。
血曼陀羅紙帳武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
その雪持ちの森々しんしんたる樹立こだちは互いに枝を重ね合い段々たる層を形成かたちづくって底に向かってなだれている。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
この構内の一画に、泉水や築山や石橋などで、形成かたちづくられている庭園があったが、その庭園の石橋の袂へ、忽然と一人の女が現われたのは、それから間もなくのことであった。
仇討姉妹笠 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
窓々からほとばしる様々の声は、高い天井や床板や、部屋部屋の壁に反響し、凄じい音を形成かたちづくったが、その音の中を貫いて、尼の叫びと車の軋りとは、次第次第に遠退とおのいて行く。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
どんぐりやくぬぎや柏によって形成かたちづくられている雑木林には、今は陽があたっていて、初葉さえ附けていない裸体はだかの幹や枝が、紫ばんだかば色に立ち並んでいたが、紙帳は釣ってなかった。
血曼陀羅紙帳武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
要するに素直なその斜面が一時岩壁でき止められ、そのため岩壁と斜面との間に一筋の谷が形成かたちづくられ、その谷の一点に庄三郎が今茫然ぼうぜんと佇んでいる。と云うのが目前の光景なのであった。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
乱れた若衆髷、着崩れた男装、それが美貌と映り栄えて、歌舞伎の色若衆さながらの、艶冶えんやたる姿態すがた形成かたちづくっている。それが縛られているのであった。柱にくくりつけられているのであった。
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
その人間は次第に殖え、ここに部落を形成かたちづくった。