廃屋あばらや)” の例文
旧字:廢屋
昔のままに残っている先祖から譲られた廃屋あばらやに住み、再び近所の子供を集めて、名賢の教えを説く傍山野の間を跋渉して、努めて心胆こころを鍛錬した。
高島異誌 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
誰一人訪ふものもないその廃屋あばらやの扉を、ひよつこり敲いて来たある昔馴染の客と、こんな言葉を取交してゐるのは、南禺集の著者、明の豊南禺その人であつた。
独楽園 (新字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
ちなみに焼失したる県立高女の廃屋あばらやは純日本建、二階造の四で、市内唯一の藁葺わらぶき屋根として同校の運動場、弓術道場の背後、高き防火壁をめぐらしたる一隅に在り。
少女地獄 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
高台に建てられたまわりの広い廃屋あばらやは、そうしていると山寺にでもいるように、風も涼しく気も澄んでいた。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
差し出て無礼とは存じますが、私の廃屋あばらやへお立ち寄りなされ、何より先にご病気の保養をなすったらいかがのもので……
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
学校の運動場のズット向うの、高い防火壁に囲まれた片隅に、物置小舎になっている廃屋あばらやがあります。
少女地獄 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
見る影もない廃屋あばらやと清らかな秋草の対照とが一つの調和をあらわして中々捨てがたい風情なのを、その連中は嬉しがってたがいにはしゃぎ乍ら見廻っていた。
死の復讐 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
それからズット以前に、学校の化学教室から盗んで置きました××××と脱脂綿と、昨日買って置きました△△△△と△△△とを持って、あの母校の思い出の廃屋あばらやに忍び込みます。
少女地獄 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
あなた様がおいやとおっしゃっても私の方からお願いして、どうでも廃屋あばらやへご案内申し、尚道中は乾児共々木曽までおとも致したく是非ともご承知くださいますよう
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
ペンペン草が蓬々ぼうぼうと生えている廃屋あばらやの中に、泥酔した蟹口がグーグー睡っていた。
衝突心理 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
春の花がけんを競っている。随分たくさん花木がある。いかにも風流児の住みそうな境地だ。だがそれにしてもこの屋敷は、何と荒れているのだろう。廃屋あばらやと云っても云い過ぎではない。
南蛮秘話森右近丸 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
……どうしてって素振そぶりが第一おかしいじゃないか。生娘きむすめの癖に、亭主持ちの真似をして、一年近くも物凄い廃屋あばらやに納まっているなんてナカナカ義理や物好きでは出来るものじゃないよ。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
出て林の方へ参りましたが、おっつけ帰ってまいりましょう。しばらくお待ちくださいますよう。……どうぞお上がりくださいまし。きたな廃屋あばらやではございますが、庭よりはましでございます
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
そんな騒ぎをちっとも知らずに廃屋あばらやの台所の板張りの上でグーグー睡っていたが、親爺の死体が担ぎ込まれても起き上る力も無いようす……そのうちにそこいらが変に臭いので、よく調べてみると
いなか、の、じけん (新字新仮名) / 夢野久作(著)
廃屋あばらやさえおいといなさらぬならば私の家でこれからも気長に保養なさりませ。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
提灯の主は元五郎といって、この道場と浴場の番人と、それから役場の使い番という三ツの役目を村から受け持たせられて、森の奥の廃屋あばらやに住んでいる親爺おやじで、年の頃はもう六十四五であったろうか。
いなか、の、じけん (新字新仮名) / 夢野久作(著)
と、綺麗なお姫様の、玩具おもちゃになることでございましょう。いや人形にとりましても、こんな廃屋あばらやにいるよりは、どんなにか出世というもので、オット又もや口が辷った。ご免下さい。ご免下さい
南蛮秘話森右近丸 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)