幽翠ゆうすい)” の例文
一叢ひとむら幽翠ゆうすいにつつまれて閑寂かんじゃく庫裡くりや本堂が見える。秀吉は山門に駒をすて、近侍たちとともにぞろぞろと入って行った。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一面に青草あおぐさで、これに松のみどりがかさなって、唯今頃ただいまごろすみれ、夏は常夏とこなつ、秋ははぎ真個まこと幽翠ゆうすいところと行らしって御覧ごろうじろ。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
だが、ここには鎌倉時代そのままなやつ幽翠ゆうすいがしいんと残っていた。また、いただいたお茶に水の良さも思われた。
随筆 私本太平記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、右の崖を仰ぐと、崖の中腹に、室町風の古雅な観月亭とびょうがあって、狭い石ころ道はこけむして見え、その辺を縫ってなお、幽翠ゆうすいな山の上へつづいている。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
四方あたり幽翠ゆうすいな峰で、散り残った山ざくらが白く、七堂伽藍がらんは、天野川の渓流がめぐるふところ谷にあり、山門へ渡る土橋から下をのぞくと、峰の桜が片々へんぺんと流れにせかれて落ちてゆく。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
山は医王山いおうざん幽翠ゆうすいを背負って、閑古鳥かんこどりでもきそうにさびていた。
鳴門秘帖:05 剣山の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)