幣束へいそく)” の例文
御酒徳利が一対、それから赤青黄の紙を刻んだ、小さな幣束へいそくが三四本、恭しげに飾ってある、——その左手の縁側の外は、すぐに竪川の流でしょう。
妖婆 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
この幣束へいそくで、おはらいをしてもらったのだか、祓い出されたのだか、二人はほどなく小屋の外へ出てしまいました。
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
扉をあけて覗くと、神体はすでに他へ移されたのであろう、古びた八束やつか台の上に一本の白い幣束へいそくが乗せてあるだけであった。その幣束の紙はまだ新らしかった。
半七捕物帳:58 菊人形の昔 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
ズラリとひれ伏した社員の頭上を幣束へいそくが風を切って走り、ミコの鈴が駈け去り駈け寄り、合唱がねり歩く。
現代忍術伝 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
その作りやうは白紙と色かみとを数百枚つきあはせたるを細き幣束へいそくのやうにきりさげ、すゑに扇の地紙の形をきりのこす、これを数千すせんあつめて青竹にくゝしくだす。
ときに巫は壇に神酒みきをもうけ、紙の幣束へいそくを立てて主人にいえらく、『一家のものをして、ことごとく壇の前を過ぎ行かしめよ。もしその中に盗みしものあらば、幣束おのずから動かん』
迷信解 (新字新仮名) / 井上円了(著)
南部領ではモリコともまたイタコともいう巫女ふじょのことであるが、関東以南のイチコ・梓神子あずさみこ・大弓などいう婦人と違うことは、弓や幣束へいそくの代りに木に刻んだ二つの人形を手に持つことで
前に飛んだのは、大きな幣束へいそくであった。後に山伏は早や立っていた。
怪異暗闇祭 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
ひとなきにすゞからんとして、幣束へいそくかみゆらぐもさびし。
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「なあにいまぢや幣束へいそくだとよ」とものがいつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
その作りやうは白紙と色かみとを数百枚つきあはせたるを細き幣束へいそくのやうにきりさげ、すゑに扇の地紙の形をきりのこす、これを数千すせんあつめて青竹にくゝしくだす。
正面には御簾みすを垂れて、鏡や榊や幣束へいそくなどもみえた。信心者からの奉納物らしい目録包みの巻絹や巻紙や鳥や野菜や菓子折や紅白の餅なども其処そこらにうず高く積まれてあった。
半七捕物帳:26 女行者 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
闖入ちんにゅうしてだ、神前の幣束へいそくを奪って来るのだ、幣束に限ったことはない、東照権現の前にある有難そうなものを、すべてひっくり返して来るのだ、それを、こっそりやってはいけない
大菩薩峠:20 禹門三級の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
その死体は古祠の前に横たわっていたが、よほど激しい格闘を演じたらしく、彼女は髪をふり乱し、着物の胸をはだけて、かた手に白い幣束へいそくを持ちながら、仰向けに倒れていた。
半七捕物帳:58 菊人形の昔 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
持っていた幣束へいそくで彼の面を一つ打ったままで、無言で奥の間へはいってしまわれたが、それを知った拙者はすぐにその場へ踏み込んで、久次郎の不埒をきびしく叱って、今後決して
半七捕物帳:26 女行者 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
どこからとも知れずに一本の白い幣束へいそくが宙を飛んで来て、すすきむらの深いところに落ちたかと思うと、人も馬も吹き倒すような怖ろしい風がどっと吹き出して、その薄むらの奥からかの狐があらわれた。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)