布地きれじ)” の例文
お里は、よく物を見てから借りて来たのであろう反物を、再び彼の枕頭に拡げて縞柄を見たり、示指さしゆび拇指おやゆび布地きれじをたしかめたりした。
窃む女 (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
そこには、赤い布地きれじでつくった古風こふう百姓ひゃくしょうの着物——みじか胴着どうぎ、ひだのあるスカート、真珠しんじゅかざりのついた胸着むなぎ——がいくつか入れてありました。
彼はごく古いがよくブラシをかけた丸い帽子をかぶり、粗末な石黄色の布地きれじのすっかり糸目まですり切れてしまったフロック型の上衣をつけていた。
中野学士のお尻の処の布地きれじが、又野の指の間で破れて、片足が足首の処まで火の海の中へ落ち込んだのであった。
オンチ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
布地きれじは、全部で三円五十銭しかしないのよ。仕立代は、相原さんの方の、つけにしておいてもらったの。」
貞操問答 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
翌日庸三はしきりに洋装をしたがっている小夜子に言われて、布地きれじを見に、一緒にひつじ屋へ行ってみた。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
の十三字が、真紅の布地きれじに金色にかがやいているのと、もう一りゅうは、人も知る信玄が座右の軍旗としていた、紺地精好織こんじせいごうおりの長旗に、こう二行の金字がしるしてあるものだった。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
金巾かなきんやフランネルの布地きれじおもであり、その頃の、どの店でも見ない、大きな、木箱に、ハガネのベルトをした太鋲ふとびょうのうってある、火の番小屋ほどもあるかと思われる容積の荷箱が運びこまれて
影はそのまま引っ込んで行って、まもなく、その方角から、どさりどさりと、重い布地きれじが飛んで来て、二人の顔やからだを打った。お蔦は蝙蝠こうもりかと思って、ぎょっとしたが、里好は慣れたもの
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
その変色していない部分は布地きれじが乾燥していたために化学変化を起さなかったので、そのためにこの女はタイプライターを扱う女という事実が推測され得る事になった。
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
施療院でありましたころは、布地きれじおおわれていたのでした。それからまた、私どもの祖母時代に属する壁板細工もあります。けれども特にお目にかけたいのは、私の居間いまなのです。