差懸さしかか)” の例文
地虫のようないびきを立てつつ、大崩壊に差懸さしかかると、海が変って、太平洋をあおる風に、提灯のろうが倒れて、めらめらと燃えついた。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
里俗鰡堀りぼくりゅうぼり差懸さしかかると俄然がぜん紫電一閃しでんいっせんたちまち足元があかるなった、おどろいて見ると丸太ほどの火柱が、光りを放って空中へ上る事、幾百メートルとも、測量の出来ぬくらいである
枯尾花 (新字新仮名) / 関根黙庵(著)
思うようにはならぬ骰子さいという習いだから仕方が無い、どうしてもこうしてもその女と別れなければならない、強いて情を張ればその娘のためにもなるまいという仕誼しぎ差懸さしかかった。
太郎坊 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
秋谷明神と云う、その森の中の石段の下を通って、日向ひなたの麦ばたけ差懸さしかかると、この辺には余り見懸けぬ、十八九の色白な娘が一人、めりんす友染ゆうぜん襷懸たすきがけ、手拭てぬぐいかぶって畑に出ている。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
疑うべき静穏せいおん! あやしむべき安恬あんてん! 名だたる親不知おやしらずの荒磯に差懸さしかかりたるに、船体は微動だにせずして、たたみの上を行くがごとくなりき。これあるいはやがて起らんずる天変の大頓挫だいとんざにあらざるなきか。
取舵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)