いさぎ)” の例文
妹の夫の手前、金の問題などを彼女の前に持ち出すのを最初からいさぎよしとしなかった彼は、この事情のために、なおさら堅くなった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
自らいさぎよしとしない文学を以てすらもなおかつかくの如く永久朽ちざる事業を残したというは一層故人の材幹と功績の偉なるを伝うるに足るだろう。
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
どうぞそれだけは安心して、後へ心を残さぬように、いさぎようお主の敵を討ってくださりませ
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
「今の心いさゝかはいさぎよからずとも、小を捨てゝ大につくは恥とすべきにも非ず。」
婦人と文学 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
と、悪虐を描くためには、悪虐し、殺人にはみずから殺人するか、そんな世間法せけんほうな賊は、文壇にどんな功があろうともよわいするをいさぎよしとしない。特にそんな奴には警察が厳重にしてくれ。
田沢稲船 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
彼が私の力を仮りることをいさぎよしとしていないのでないとすれば、そうたいした学校を出ていない自分を卑下しているか、さもなければその仕事に興味をもたないのであろうと考えられた。
蒼白い月 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
男子の本領としていさぎよく放棄したり。
自分はいさぎよく涙金なみだきんを断った。断った表向は律義りちぎにも見える。自分もそう考えるが、よくよく詮索せんさくすると、慾の天秤てんびんけた、利害の判断から出ている事はたしかである。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
くがや浜田は早くも去って古川一人が自恃庵の残塁にっていたが、区々たる官僚の規矩きくを守るをいさぎよくしないスラヴの変形たる老書生が官人気質の小叔孫通とれるはずがないから
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
この事件後僕は同じ問題に関して母の満足を買うための努力をますますいさぎよしとしなくなった。自尊心の強い父の子として、僕の神経はこういう点において自分でも驚ろくくらい過敏なのである。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
死ぬとすればその方がいさぎよいかも知れない。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)