居心地いごこち)” の例文
ここは汽車の音も間近に聞こえ、夜深よふけには家を揺する貨車の響きもするのだったが、それさえ我慢すれば居心地いごこちは悪くなかった。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
私には年とった彼女が私達の居心地いごこちのいい家にいないで、何処どこかよその家に行っているのが、何んだかかわいそうな気がしてならないのだった。
幼年時代 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
葉子は特等を選んで日当たりのいい広々とした部屋へやにはいった。そこは伝染病室とは比べものにもならないくらい新式の設備の整った居心地いごこちのいい所だった。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
やはりわたしの子どもです。それはどれほどあれにとって居心地いごこちがよかろうとも、あなたの病身のお子さんのおもちゃになっているよりは、はるかにましです。
ジョン・ヒンクマン氏の田園住宅は、いろいろの理由から僕にとってははなはだ愉快な場所で、やや無遠慮ではあるが、まことに居心地いごこちのよい接待ぶりの寓居ぐうきょであった。
河原に向った数寄屋作りは、お千絵のために建てたように居心地いごこちのピッタリ合った部屋だった。
鳴門秘帖:06 鳴門の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そのうちに、つい自分じぶんが、どこにどうしているということもわすれて、あの居心地いごこちのよかった古巣ふるすが、この付近ふきんにでもあるとおもったのか、きゅうこいしくなってさがしはじめました。
縛られたあひる (新字新仮名) / 小川未明(著)
この離れ座敷に立てこもった野々宮さんを見た時、なるほど家を畳んで下宿をするのも悪い思いつきではなかったと、はじめて来た時から、感心したくらい、居心地いごこちのいい所である。
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
居心地いごこちのいい車庫にはいてもちっとも、しあわせだとは思えないのでした。
やんちゃオートバイ (新字新仮名) / 木内高音(著)
綺麗好きれいずきの妻のまわりには、自然にこまごましたものが居心地いごこちよく整えられていたし、夜具もシイツも清潔な色をたたえていた。それらには長い病苦に耐えた時間の祈りがこもっているようだった。
美しき死の岸に (新字新仮名) / 原民喜(著)
いつも白足袋しろたびをはいていることもどうしても好きになれないものを感じた。むしろミチ姉の方が居心地いごこちよさそうであったが、そこには五人もの男の子がいるし、それに実枝は女学校へは入りたかった。
(新字新仮名) / 壺井栄(著)
悪漢あっかんウルスキーよ。その硝子函ガラスばこ居心地いごこちはどうじゃネ」
見えざる敵 (新字新仮名) / 海野十三(著)
いつのまにか、そこは居心地いごこちのいい場所になっていたのだ。
秋日記 (新字新仮名) / 原民喜(著)