尺度ものさし)” の例文
十右衛門の訴えは何処までがほんとうで、政吉の申し立ては何処までがほんとうか、その寸法を測る尺度ものさしを見つけ出すのに半七も苦しんだ。
半七捕物帳:10 広重と河獺 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
団扇掛うちわかけに長い尺度ものさしの結び着けたのがの代りになり、蒲団ふとんが舟の中の蓆莚ござになり、畳の上は小さな船頭の舟ぐ場所となって
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
彼が自負している剣の理から、この人物の底を計ろうとしても、持ちあわせの尺度ものさしでは寸法が足らないような尊敬を正直に持ってしまった。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一生を斗量はかりにかけ尺度ものさしにはかり、これほどゝ限りある圖の中に、身は目に見えぬ繩につながれ、人の言葉を守り人の命令さしづに働き、功は後の世に殘る事もなく
花ごもり (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
しかし、耳順う境地に達するまでは、わしの行為の尺度ものさしの目盛は、どうやら精密を欠いていたようじゃ。
論語物語 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
「それは眼で見る事ができ、尺度ものさしで計る事のできる物体についての話でしょう。心にも形があるんですか。そんならその中心というものをここへ出して御覧なさい」
硝子戸の中 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
真実まこといえば一尺の尺度ものさしが二尺の影となって映る通り、自分の心というともしびから、さほどにもなき女の影を天人じゃと思いなして、恋もうらみもあるもの、お辰めとても其如そのごと
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
巴里パリイの城門を出るのに税関吏が尺度ものさしもつて自動車の貯へて居る揮発油エツサンスの分量を調べた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
今日の尺度ものさしでは、ちょいとはかりきれない間伸まのびのしたものだ。
ためらはず宇宙を測る尺度ものさしにわれ自らの本能を取る
註釈与謝野寛全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
世のなかには普通の尺度ものさしで測ることの出来ない不思議の多いのをかんがえると、半七はまだ容易にどちらへも勝負をつけるわけには行かなかった。
半七捕物帳:35 半七先生 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
昔は一藩の家老が地方を巡見したといふだけでも、ちよつと今日の尺度ものさしにはあてはめられない。
桃の雫 (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
馬琴の小説はイヤに偏屈で、隅から隅まで尺度ものさしを当ててタチモノ庖丁ぼうちょうで裁ちきったようなのが面白くなくも見えましょうが、それはそれとして置いて、馬琴の大手腕大精力と
それを部屋の真中にひつくりかへして、早速舟を漕ぐ真似を始めた。麻の夏蒲団は蓆筵ござの代りに成つた。小さな畳の上の船頭は団扇掛うちはかけに長い尺度ものさしゆはひ着けて、それでの形を造つた。
出発 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)