小走こばしり)” の例文
とばかりありて、仮花道に乱れ敷き、支え懸けたる、見物の男女なんにょ袖肱そでひじの込合うたる中をば、飛び、飛び、小走こばしりわらわ一人、しのぶと言うなり。
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
宗近君は返事をする前に、屑籠を提げたまま、電車の間を向側へけ抜けた。小野さんも小走こばしりいて来る。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
土地の芸者が浴衣ゆかたを重ねた素肌の袷に袢纏はんてんを引掛けてぶらぶら歩いている。中には島田をがっくりさせ細帯のままで小走こばしりにお湯へ行くものもあった。箱屋らしい男も通る。稽古三味線も聞える。
夏すがた (新字新仮名) / 永井荷風(著)
掃清めたその門内へ導くと、ちょっとこれに、唯今ただいまご案内。で、おんなは奥深く切戸口と思うのへ小走こばしりに姿を消した。式台のかかり、壁の色、結構、綺麗さ。
雪柳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
すると、幕のりた舞台ぶたいの前を、向ふのはじから此方こつちけて、小走こばしりに与次郎がけてた。三分の二程の所でとまつた。少し及びごしになつて、土間どまなかのぞき込みながら、何かはなしてゐる。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
後馳おくればせにつかつかと小走こばしりに入りましたのが、やっぱりお供のうちだったと見えまする、あのお米で。
政談十二社 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)