小歇こや)” の例文
あずま橋下からだんだんに綾瀬の方までのぼって行ったのは夜も四ツ(午後十時)をすぎた頃で、雨もひとしきり小歇こやみになった。
半七捕物帳:32 海坊主 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
侍役もりやくの者も、もてあましてただ眺めていた。そのあいだにも——だいぶ小歇こやみにはなって来たが——ばちばちと、小銃の音はきこえてくる。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
雨は小歇こやみと共に夜が近くなつて居る。まア仕方がない、今夜は何処か宿屋へでも? そうだ。宿屋は善い思ひ付だ。
しめやかな話が、しばらく続いていた。動物園で猛獣のうなる声などが、時々聞えて、雨の小歇こやんだ外は静かに更けていた。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
こまかな、かわいた雪が、さらさらと一日じゅう降り、夜になってやんだとおもうと、あくる朝はもっとひどくなり、それから三日のあいだ小歇こやみもなく降りつづけた。
日本婦道記:春三たび (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
咳の小歇こやみのあいだにただ一つの救いである煙草を一服やろうと、私は煙草に火をつけた。そんな物をうけつける筈がないのに、それをとおそうとするのだ。馬鹿の骨頂なのだ。
昨夜からかけて小歇こやみなく降っていたのが朝になって一層の威勢を加えました。東へ向いても笹子や大菩薩の峰を見ることができません。西へ向って白根連山の形も眼には入りません。
大菩薩峠:14 お銀様の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
そして、チョイチョイした物音、話声、硝子器のチリンという音、召使達の足音、そうした物音に混って、二人の客人は家の四方に小歇こやみなくザワザワと流れる水声を聞くことが出来た。
そのうちには小歇こやみになるだろうと待っていたが、夜のふけるにつれていよいよ強くなるらしいので、伊四郎も思い切って出ることにした。
異妖編 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
一時は、小歇こやみかと思われた風速も、この広い地域にわたる猛火にふたたび凄まじい威力をふるい出し、石も飛び、水も裂けるばかりだった。
三国志:08 望蜀の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「もう、雨も小歇こやみになった様子、早く本道へ戻りましょう」
大菩薩峠:15 慢心和尚の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
雷はすさまじく鳴りはためいて、地震のような大きい地ひびきがする。それが夜の白らむまで、八、九時間も小歇こやみなしに続いたのであるから、実に驚いた。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
毎日降りつづく五月雨さみだれもきょうは夕方からめずらしく小歇こやみになったが、星ひとつ見えない暗い夜に、牛込無量寺門前の小さい草履屋のかどをたたく者があった。
半七捕物帳:44 むらさき鯉 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
雨が小歇こやみになると、町の子供や旅館の男がほうき松明たいまつとを持って桜の毛虫をいている。この桜若葉を背景にして、自転車が通る。桑を積んだ馬が行く。方々の旅館で畳替えを始める。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
わたしたちの宿舎のとなりに老子ろうしの廟があって、滞留の間にあたかもその祭日に逢った。雨も幸いに小歇こやみになったので、泥濘でいねいの路を踏んで香をささげに来る者も多い。縁日商人も店をならべている。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
さびしく衰えた古い宿場で、暮秋の寒い雨が小歇こやみなしに降っているゆうべ深山みやまの奥に久しく住んでいた男から何かの怪しい物がたりを聞き出そうとした、その期待は見事に裏切られてしまったのです。
木曽の旅人 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
外には暗い雨が小歇こやみなく降っていた。
半七捕物帳:68 二人女房 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)