寃罪えんざい)” の例文
これはお爺いさんが為めにする所あって布団をまくるのだと思って附けた渾名あだなである。そしてそれが全くの寃罪えんざいでもなかったらしい。
心中 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
仕方がないから、僕は、表面上、Kの私行をあばいたと云ふ罪を甘受かんじゆして、Kに謝罪したがね。まるで、寃罪えんざいに伏した事になるのだから、僕もいい迷惑さ。
創作 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
母のいわゆる寃罪えんざいは堂々と新聞紙上ですすがれたが、自分のはとうとうそのままになってしまった、あの苦い経験などがますます葉子の考えをかたくなにした。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
妻子しばらく御匿おかくまい願入る。のがれ難き寃罪えんざいにて暫時退国仕る。寃罪晴れ次第帰国。それまで。
だだら団兵衛 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
その語気ごきの人もなげなるが口惜しくて、われにもあらず怫然ふつぜんとしていきどおりしが、なお彼らが想像せる寃罪えんざいには心付くべくもあらずして、実に監獄は罪人を改心せしむるとよりは
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
其の身の寃罪えんざいを解こうとする大密旨を持って居る女が、其の密旨の到底遂げるに由なきのみか又更に別に寃罪を受けんとして之を逃れる道もなきを見ては、決して自殺せぬと限らぬ
幽霊塔 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
「待てよ、いいものがあるぜ。星田君。あれさホラ、例の指紋さ。まさかいくらなんでも、君の指紋まで盗み出すことは出来ないじゃないか。あの指紋一つで、君の寃罪えんざいははれる訳だ」
もつとも抜萃のしやうがわるいため、たまたま不手際なやつが揃ふて居るのかも知れぬが、とにかくこれらを標準として翁の伎倆を評する人があるならば大なる寃罪えんざいを翁に加へるものである。
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
「釣ろうったって駄目だよ。盆栽の方は仕方がないが、碁盤は寃罪えんざいだ」
或良人の惨敗 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「いよいよもって呆れたな。口の軽い男だわい。その口前くちまえで女子をたらし、面白い目にも逢ったであろうな」「これはとんだ寃罪えんざいで、その方は不得手でございますよ。第一生物なまものは断っております」
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
しかし彼が寃罪えんざいでないことは明白であった。
拷問の話 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
政冶の紊れを幕府老中の手で打開してもらおうということ、また自分の寃罪えんざいをはらしたいということで、国老のあいだを奔走し、国目付へ訴えるとも申しているようでございます。
意外にも奇怪千万せんばんなる寃罪えんざいの因となりて、一時妾と彼女と引き離されし滑稽談こっけいだんあり、当時の監獄の真相をつまびらかにするの一例ともなるべければ、今その大概を記して、大方たいほうの参考に供せん。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
「大学は三年まえから、しきりに自分の寃罪えんざいを主張し、二度も国目付へ訴状を出した、これまでは国目付も受付けなかったが、今年の国目付はそれを受取って、老中へ届けることになったのだ」