安気あんき)” の例文
旧字:安氣
よけいな心配をしないで、安気あんきに部屋で寝転がっているがよかろうというようなことをいい、有合うギヤマンの盃に酒を注ぎ
重吉漂流紀聞 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
「ええ、行きますべえ、ああ、どっこいしょ、山で日を送ってりゃ安気あんきなもんだ、あさっでは久し振りでかかあの顔でも見ますべえかなあ……」
木曽御嶽の両面 (新字新仮名) / 吉江喬松(著)
貧しさにいる夫婦二人のものは、自分の子供らを路頭に立たせまいとの願いから、夜一夜ろくろく安気あんきに眠ったこともなかったほど働いた。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
同時にお豊にして浅草の片隅に住むしがない常磐津ときわづの師匠でなかったら、松風庵蘿月にして向島の土手下に住む安気あんきな俳諧の宗匠でなかったら、そうまでしかし無条件に
浅草風土記 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
其処そこころがっている自然石のはしと端へ二人は腰を下ろした。夏の朝の太陽が、意地悪に底冷そこびえのする石の肌をほんのりとあたたなごめていた。二人は安気あんきにゆっくり腰を下ろしてられた。
かの女の朝 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
ことに段々と澄徹の境を離れるところにいかにも安気あんきがあった。
ドナウ源流行 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
「ええ、田舎いなかの方が安気あんきで好い。兄さんや姉さんの傍に居られるだけは、東京も好いけれど——」
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
伊豆の田浦岬の二十四五里の沖あいで行きがた知れずになった十一人の片われが、まさか石川島の人足寄場にいるとは思わない。その気にさえなれば、こんな安気あんきなところはない。
顎十郎捕物帳:13 遠島船 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
顔を出してもどこか気ぶッせいなので、由良のまえには長くいず、すぐ奥へ行って御新造ごしんぞだのお嬢さんだのゝまえに安気あんきな時間を送った。——御新造やお嬢さんはかれが贔負だった。
春泥 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
町人は内輪に勤めるのが何事につけても安気あんきであると思うと書き残したのもまたこの人だ。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
とても五百石とはいかねえが、一家七人安気あんきに喰えるようなところへ、取りつかせて見せます。身装なりは悪いが、これでなかなか強面こわもてがきく。大名も小名も、みな手前の朋友のようなもんです。
顎十郎捕物帳:09 丹頂の鶴 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
どのくれえ、まあ、俺も心配したらう。あゝ今夜からは三人で安気あんきに寝られる。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)