安旅籠やすはたご)” の例文
宿所は、道家清十郎から、く手まわししておいた洛外の腹帯地蔵はらおびじぞう在家ざいか。山伏たちは、附近の農家や安旅籠やすはたごへ、ちらかって泊った。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この図をながら、ちょんぼりひげの亭主が、「えへへ、ごさかんこつだい。」いきおいの趣くところ、とうとう袴を穿いて、辻の角の(安旅籠やすはたご)へ
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
不安な一夜を、芝口の或安旅籠やすはたごに過して、翌日二人は川西へ身を寄せることになるまで、お島たちは口を捜すのに、暑い東京の町を一日彷徨ぶらついていた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
佐野屋という安旅籠やすはたごはすぐにわかった。幸助という男もいて、猿屋町から来たと云うと、すぐにあらわれた。
枡落し (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
ここは龍野街道の一宿場なので、町というほどの戸数もないが、一膳めし屋、馬子のたまり、安旅籠やすはたごなどの、幾軒かが両側に見える。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
安旅籠やすはたごの二階などに見られる、五六月のこうになるまで、旅客のあとのすっかり絶えてしまうこの町にも、県の官吏の定宿じょうやどになっている浜屋だけには、時々洋服姿で入って来る泊客があった。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
魯達はもう例の憲兵服をまとった偉躯いくを場末町にあらわして、安旅籠やすはたごの魯家の入口に立っていた。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
宿端れのわびしい安旅籠やすはたごには、足の不自由な石尊詣りや、業病の願がけに来た老人としよりや、また宿の家族にも子供や老婆などが多いのを思い起して、一樹の縁の人々の災難を
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「東門内の魯家ろけという安旅籠やすはたごでございますが」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
蹴上けあげの辺の、とある安旅籠やすはたご軒端のきば
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)