孤塁こるい)” の例文
旧字:孤壘
やむなく、夜毎に、全山に大篝火おおかがりびを焚きつらねて、彼方の味方の孤塁こるいに、遠く、士気を添えている程度にとどまった。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
二千余年の長夜の暗漸やく明けて、この国に新らしき生命の光もゆるや、彼もまた単身孤塁こるい吟杖ぎんぢやうふるつて赤門校裡の書窓より新声を絶叫したるの一人なりき。
閑天地 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
あたり一帯を、官員屋敷に取り囲まれてしまった中にはさまって、せめてもこの孤塁こるいだけは守り通そうというように、うるんだ灯のいろの残っている街だった。
山県有朋の靴 (新字新仮名) / 佐々木味津三(著)
いまや箱根の孤塁こるいには、譜代ふだいの御一族の全生命が、ただ一つのお救いのみを、ひたすら、お待ちしておりますものを
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
大塔ノ宮は吉野の孤塁こるいに、千早は敵の重囲のなかで、明日の望みはおろか、一命すらも、いつ北条の寝刃ねたばに会うやらと、日々が露の身のおここちだった。
伝家でんか宝什ほうじゅう御旗みはた楯無たてなしの心をまもり、大祖父だいそふ信玄しんげん衣鉢いはつをつぎ、一ぺん白旗しらはた小太郎山こたろうざん孤塁こるいにたてます。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「……これが百七十余日、敵数万の包囲の中で、千早の孤塁こるいをささえて来たあの大将か?」と、その風采や太刀粧いの見すぼらしさに、ふと軽侮に似た案外な容子ようす
「げに一ト頃は、この水分みくまりたちさえ焼き払い、千早の孤塁こるいに冬をすごし、草を喰べ、よくぞ生きてきたものよ。しかも、その籠城中に、そなたは観世丸を産んでいた」
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「図に乗るまい。——籠城の兵は、病人負傷者をのぞけば千人を欠いておる。それも草を食って、飢餓きがにたえつつ、この孤塁こるいをささえてきた骨と皮ばかりな兵でしかない」
私本太平記:08 新田帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
おそらくは、かれらとても、この一城——いやすでに三の丸を失った半城の孤塁こるいが、余命、いくらもないことは、無言のうちに知っていたろうが、何としたことか、脱走者もないのであった。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
佐久間玄蕃允げんばのじょうは、夕刻、ここに一部隊を上げていた。翌朝の賤ヶ嶽攻撃に、飯浦坂いいうらざか、清水谷などの西北方にある味方先鋒部隊と呼応こおうし、敵を孤塁こるいらしめて撃つ意図いとであったのはいうまでもない。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
大蔵の眸は、その孤塁こるいへ、じっと吸いよせられていた。
私本太平記:06 八荒帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
敵はそれの矢文やぶみを、孤塁こるいの兵に射込み、それには
私本太平記:07 千早帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
すると孤塁こるいの裏側から、意外な援けが入ってきた。
私本太平記:07 千早帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)