嬌名きょうめい)” の例文
芳町よしちょうやっこ嬌名きょうめい高かった妓は、川上音次郎かわかみおとじろうの妻となって、新女優の始祖マダム貞奴さだやっことして、我国でよりも欧米各国にその名を喧伝けんでんされた。
明治美人伝 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
お梶は、もう四十に近かったが、宮川町の歌妓うたいめとして、若い頃に嬌名きょうめいうたわれた面影が、そっくりと白い細面の顔に、ありありと残っている。
藤十郎の恋 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
この材と質とをもってせば天下に嬌名きょうめいうたわれんこと期して待つべきに、良家の子女に生れたるは幸とや云わん不幸とや云わんとつぶやきしとかや。
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
歌の文句の中に嬌名きょうめいを留めている者は、明治に入ってからでもまだ幾らもある。節子ふしこのとみというゾレがおそらくは最後のもので、現に八十余歳の長命で、猟人かりゅうどの妻になって生きている。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
が、私が呼んだ筈の、嬌名きょうめい一代を圧した林黛玉りんたいぎょくは、容易に姿を現さない。その内に秦楼しんろうと云う芸者が、のみかけた紙巻を持ったなり、西皮調の汾河湾ふんかわんとか云う、宛転たる唄をうたい出した。
上海游記 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
今紫は大籬おおまがき花魁おいらん、男舞で名をあげ、吉原太夫よしわらだゆうの最後の嬌名きょうめいをとどめたが、娼妓しょうぎ解放令と同時廃業し、その後、薬師錦織にしごおり某と同棲どうせいし、壮士芝居勃興ぼっこうのころ女優となったりして
明治大正美人追憶 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)