なよや)” の例文
そこのとまの陰には、船頭の妻とも見えぬなよやかな病人が、つかね髪を木枕にあてて、白いおもてをなかば、夜具のえりにかくして寝ていた。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
独言ひとりごとのようにこう云いながらしかも帰るような風情ふぜいもなく市之丞はじっと立っている。それになよやかに寄り添いながら芳江は言葉もなく立っている。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
と白い手と一所に、銚子ちょうしがしなうように見えて、水色の手絡てがら円髷まるまげが重そうに俯向うつむいた。——なよやかな女だというから、その容子ようすは想像に難くない。欄干に青柳の枝垂しだるるなかに、例の一尺の岩魚いわな
古狢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
年ばえもうら若いし、足もとや体つきまでがいかにもこんな所のあらい風には馴れぬらしいなよやかな姿なのである。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
羅門は、死骸を見すてて、塀際へいぎわの方へ駈けた。東儀もむろん追い捲くした。——だが咄嗟とっさに、女性のなよやかさをかなぐり捨てた花世は、翼をひろげた雉子きじのようにはやかった。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
すると本町ほんちょうの辻で、はたと、目のさめるような美しい娘に出会った。白粉気おしろいけはないが、りんとして、しかもなよやかで、文筥ふばこを胸に抱いている姿のどこかに初々ういういしさもあって、気品のある武家娘だった。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)