妖怪もののけ)” の例文
成経は成経で、妖怪もののけかれたような、きょとんとした目付きで、晴れた大空を、あてどもなく見ながら、溜息ばかりついている。
俊寛 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
と薪左衛門は、呻き声をあげたが、やにわに天国の剣を引き抜き、春の白昼まひるに現われた、「声の妖怪もののけ」を切り払うかのように、頭上に振り
血曼陀羅紙帳武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
父母、太郎夫婦、此の恐ろしかりつる事を聞きて、いよよ豊雄があやまちならぬをあはれみ、かつは妖怪もののけしふねきを恐れける。かくて三〇一やむをにてあらするにこそ。妻むかへさせんとてはかりける。
その時、祠の陰から、お篠の代首を、今は口には銜えず、可憐いとおしそうに両袖に抱いた、仮面のような獅子顔の男が妖怪もののけのように現われ、お篠の横へ立った。
鸚鵡蔵代首伝説 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
武士らこれをとりもたせて、怪しかりつる事どもをつばらに訴ふ。助も大宮司も妖怪もののけのなせる事をさとりて、豊雄をさいなむ事をゆるくす。されど二〇九当罪おもてつみまぬがれず、かみみたちにわたされて牢裏らうりつながる。
陥穽おとしあなにお八重は落ちたのであった。頼母は壁際に佇んだまま、陥穽の口を見詰めていた。すると、その口から男の半身が、妖怪もののけのように抽け出して来たが
仇討姉妹笠 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
燈心を引いてわざと細めた紙燭の光が、古びた襖へ、朦朧もうろうとした二つの影法師を、妖怪もののけのようにうつしている。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
といつの間に現われたものか、その松女のすぐの背後うしろに、妖怪もののけのような女の姿が、朦朧として佇んでいた。
仇討姉妹笠 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
其処は山の裾野でしたが、枯草の上へ胡座を掻き満月を背に負った老人の姿は妖怪もののけのようでございます。
天草四郎の妖術 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
気強きじょうとは云っても女である、民弥は思わず身顫いをしたが、「右近丸様!」と寄り添った。「妖怪もののけなどではございますまいか」「なんの!」と右近丸は一笑した。
南蛮秘話森右近丸 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
妖怪もののけのようでもあれば狂女のようでもあり、その顔の下に垂れている男の首は、代首かえくびなどとは思われず、妖怪によって食い千切られた、本当の男の生首のようであった。
鸚鵡蔵代首伝説 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「いやいやそれは中傷で、葉之助殿は非常な武芸者、高遠城下で妖怪もののけを退治し、武功を現わしたということでござる」まれにはこう云って葉之助を、弁護しようとする者もあった。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
片腕が肘から切られてい、片足が膝から切られているので、左の脇の下に撞木杖しゅもくづえを挟み、満足の右の手に竹の杖を持った、盲目の乞食こじきが藪の横に、乱れた髪を顔にかけ、妖怪もののけのように立っていた。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
妖怪もののけのようにも思われるし、肉体から脱け出た魂のようでもある。
南蛮秘話森右近丸 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)