女房かない)” の例文
亭主といふものは、女房かないを里帰りさせるか、それとも自分が遠くへ旅立でもしなければ、滅多に女房かないの手紙を読む機会に出会でくはさない。
だから、もし自分のうち女房かないから手紙を投げつけられるやうな事があつたら、大抵の亭主は、小鳥のやうにふるへあがるにきまつてゐる。
平素ふだん女房かないにいたぶられてゐる亭主は女房の不在るすに台所の隅で光つてゐる菜切庖丁なきりばうちやうや、葱の尻尾に触つてみるのが愉快で溜らぬものだ。
そして誰にも気づかれないやうにこつそり戸棚から皿を一枚もち出して、いつも女房かないが坐りつけの食堂の椅子の上に載せておいた。
そしてこんな不意な儲けをするのも、自分の女房かない見立みたてが善かつたからだと思つて、満足さうにけぶりをぱつと鼻の穴から吹き出した。
あまり銀行の仕事がいそがしかつたので、自分のうちに帰りつくまで、その日がちやうど女房かないの誕生日に当ることをすつかりわすれてゐた。
「まあ、さうなの。」女房かないは皿をとりあげて、ちらと中をあらためて見てゐたが、すぐ目をあげて胡散うさんさうに良人をつとの顔を見た。
ほんとに鰯のうろこつてなかつたが、不断女房かないとげのある言葉を食べつけてゐる者にとつては、魚のうろこなどは何でもなかつた。
著述家や学者のやうにいつも書斎にばかり引込ひつこんでゐる人達が、女房かないに好かれないのは大抵かうした理由わけによるものである。
下田歌子女史が最近大阪のある講演会で言つた所によると、最も理想的な衣服きものは、日本服で、それも女房かないや娘の縫つたものに限るのださうな。
大掾はうちへ帰ると一部始終を話して、女房かないに鄭重な挨拶をした。するとお高さんの顔が急に反古ほごのやうに皺くちやになつた。
家に着くと、女房かないは何か忘れ物でもしたらしく、そこらをうそ/\捜しまはつてゐたが、急に主人の方へふり向いて訊いた。
自分は女と生れて、雄弁家リイドの女房かないにならなかつたのを喜ぶと同時に、男と生れて呂昇の恋人とならなかつたのを祝福せぬ訳にゆかない。
自分の霊魂たましひと自分の女房かないを信じない人も、懐中時計だけは信ずる。その懐中時計をすらお上手なしに報告出来ない人は、世にも不幸ふしあはせな技巧家である。
「先生、どうぞ御質問はそのくらゐにして頂きたいものですね。実はあの女は手前の女房かないでございますので……」
美術家だつたら、雲を見ようと、動物園を見ようと、動物園よりはもつとすさまじい駅長の女房かないの寝顔を見ようと、一向掛け構ひはないといつたやうな物の言ひ方だつた。
欧羅巴ヨーロツパの戦線に派遣せられた米国の軍隊に、牛乳配達夫の召集せられたのが一人まじつてゐた。その男が最近郷里くに女房かないあてによこした手紙には、次のやうな文句があつた。
どこのうちでも、主人が家庭にばかりんでゐると、女房かないの多くはすべてそれを物足りなく思つて、どうかして亭主を籾殻もみがらか何ぞのやうに門口かどぐちから外に掃き出す工夫はないものかと