大字だいじ)” の例文
庄「紙屑買などが来ないと貧乏人は困るなア、おれ細字さいじは書けないが大字だいじなら書けるから少しでも見えるようになればよいのう」
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
室の中はただ薄暗いに照らされていた。その弱い光は、いかに大字だいじな書物をも披見ひけんせしめぬ程度のものであった。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
県下第一の旅館の玄関、芍薬しやくやくと松とをけた花瓶、伊藤博文いとうひろぶみ大字だいじがく、それからお前たちつがひの剥製はくせい……
動物園 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
つい私は莞爾にっこりした。扇子店おうぎみせの真上の鴨居かもいに、当夜の番組が大字だいじで出ている。私が一わたり読み取ったのは、唯今ただいまの塀下ではない、ここでの事である。合せて五番。
木の子説法 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
新聞を見ても少し長い記事になると、もう五六行讀んだ許りで、終末しまいまで讀み通すのがもどかしくなつて、大字だいじ標題みだしだけを急がしくあさつた。續き物の小説などは猶更讀む氣がしなかつた。
不穏 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
玄関の左には人間愛道場掬水園の板がかかり、ふり仰ぐと雀のお宿の大字だいじの額に延命十句観音経まで散らして彫り、右には所用看鐘かんしょうとして竹に鐘がつるしてあり、下には照顧脚下しょうこきゃっかしょしてある。
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)
へやなかはたゞ薄暗うすぐららされてゐた。そのよわひかりは、如何いか大字だいじ書物しよもつをも披見ひけんせしめぬ程度ていどのものであつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)