夜一夜よっぴて)” の例文
けれども、それは何、わかいもの同志だから、萌黄縅もえぎおどしよろいはなくても、夜一夜よっぴて戸外おもて歩行あるいていたって、それで事は済みました。
女客 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
わたくしは、その晩、夜一夜よっぴて、ちょうど愛の抱擁をした人間が女の体臭を大切にもっているように、その腐肉の悪臭、腐って行くわたくしの愛人の臭いを大切にまもっていたのでした。
(新字新仮名) / ギ・ド・モーパッサン(著)
料理屋じゃ、のっけから対手あいてにならず、待合申すまでも無い、辞退。席貸をと思いましたが、やっぱり夜一夜よっぴてじゃ引退ひきさがるんです。
吉原新話 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
馬鹿な人間は困っちまいます——うお可哀相かわいそうでございますので……そうかと言って、夜一夜よっぴて、立番をしてもおられません。旦那、お寒うございます。おしめなさいまし。
眉かくしの霊 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
これだけは夜一夜よっぴてさがせ、と中に居た、酒のみの年寄が苦り切ったので、総立ちになりました。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
一膳めし屋で腹をこさえて、夜通し、旦那、がらがら石ころの上を二台、曳摺ひきずって、夜一夜よっぴて山越しに遣って来やしてね。明け方ちょうどここンとこまで参りやすと、それ、旦那。
わか紫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「だってあねさん、ベソも掻かざらに。夜一夜よっぴて亡念の火が船について離れねえだもの。理右衛門りえむなんざ、おらがベソをなんていう口で、ああ見えてその時はお念仏唱えただ。」と強がりたさに目をみはる。
海異記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
(いえ、こっちの看護婦と、向うから附いておいでなすった、それはそれは美しい、看護婦さんと、もう一人職人のような若いしゅが、もうつきッきりで、この間ッから夜一夜よっぴて一目もなさらないで、狂人きちがいのようですよ。)
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)